□第七夜 灰燼のフロンティア
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7-3 灰色の戦場(4/4)

 
 渇いた大地を地底よりえぐり、貫くように噴出したそれは瞬く間に辺り一面を満たして広がる。

「枯れた森――そう呼ばれる以前の名を知っているか?」

 竜の言葉に、巨鳥は半ば呆然とただ沈黙。
 今や数万もの小世界が点在するデジタルワールド。ましてこんな辺境。隅から隅まで細大漏らさず把握しろというほうが無理な話。だからこそ、彼らはこの地を選んだのだ。初めから、今日この時、決戦の舞台として。

 その名を“水の森”。

 地底より溢れ出した激流は荒野を、侵攻する歩兵もろとも飲み込み、一帯を巨大な湖へと――渇いた地を本来の姿へと戻してゆく。そして、

「ヴォ……ゥオオォーー……!」

 水面を揺らす目覚めの咆哮。姿を現すは“ならずもの”――“ゼブルナイツ”の本拠地。それはこの地を枯らした、水源を地底よりせき止めた張本人。大地を引き裂き水流を掻き分け、その雄々しき巨体が激流のただ中にそびえ立つ。

「城……これは、まさか……!」

 荘厳に建つは巨大なる古城。それを背に、悠然と立つは巨躯なる大亀。古き伝承に語られるその存在は、数百年を生きるアポカリプス・チャイルドの幹部たちとて目にするのはこれが初めて。生きた伝説、歩く城塞――

「“エルドラディモン”……だと……?」
「ほう、よく知っているな」

 巨鳥の驚愕に、竜は眼下の大亀・エルドラディモンを見下ろし笑う。大亀の頭の上にはデスメラモンたち歩兵部隊の姿が見えた。どうやら半数近くが、あるいは先の戦闘で、あるいは大亀への退避が間に合わず犠牲になったようだが……上出来だ。お陰で敵方の歩兵を先行部隊は一掃、逃れた後続の部隊も進攻は食い止めた。後は――

 瞬間、水面から伸びるそれ。のっぺりとした青白い触手が一つ、二つと。突然のことに思わず呆けていたパロットモン率いる飛行部隊の幾らかを捕らえ、水中へと引きずり込む。はっ、と我に返るように飛行部隊は臨戦の構え。が、一拍を置いて飛来する第二撃はまるで別方向からの氷の矢。

「援軍……地下水脈か……!」

 舌打ち。巨鳥は竜から距離を取るように高度を上げる。上空から見渡した戦場、陸はほぼ制圧されたとはいえ、空軍戦力だけでも数の上での優位は変わらない。だが、

「おやおや。ショータイムはまだ、これからだぞ?」

 余裕を湛えたそんな竜の笑みには、戦局の混迷を予感せざるを得なかった――
 
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