□第七夜 灰燼のフロンティア
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7-3 灰色の戦場(1/4)

 
 灰の荒野にぽっかりと口を開ける暗がり。それは天に唾吐く“ならずもの”――“ゼブルナイツ”の本拠地である地下要塞へ続く大穴。開け放たれた入り口の周囲には佇む数百の異形。騎士団を名乗ろうとその姿形は騎士には程遠く、剥き出しの牙と殺意はまるで理性なきケダモノ。

 さて、と。異形の一つ、毒々しく陽光に照る闇色の竜が声を上げる。その足元で赤い骸骨がおもむろに竜を見上げ、周囲のケダモノたちも視線を寄越す。

「誇り高き反逆の騎士たちよ、時は満ちたようだ」

 見上げる空と見渡す地平の彼方、小さな影がぽつぽつと浮かぶ。

「不条理への義憤は足りているか? 自由を求む反逆の意志は充分か? 足りぬ腑抜けはよもやおるまいな!?」

 ずずん、と、右腕の槍を荒野に突き立てれば、沸き起こるのは鬨の声。

「さあ出陣だ! 狼煙を上げろ! 我らが同胞たちも待ちくたびれていよう! その怒りを、鉄槌を! 愚かなる神の家畜どもに振り下ろせ!!」

 吐き捨てるような怒号は波紋のように広がって。そうして――戦いの幕は切って落とされる。

「……本当にこれでよかったのか?」

 開戦を告げる火柱が上がり、荒野を震わす行軍の足音が轟き、そんな折。

 響く怒声の間を縫うようにぽつりと赤い骸骨が問う。竜は前線を見据えたままに静かに返す。

「不服かね」
「いいや。だが……」
「名実ともにこの俺がリーダーとなった。それだけのことだ」

 相も変わらず視線も寄越さず、そんな竜の言葉に骸骨は僅かの沈黙と、思考。手にした杖を握り直し、その目を地平の敵影に向ける。

「くく……ああ、そうだな。そのとおりだ」

 思えば簡単なこと。幾ら大義名分と大層な名を掲げようと我らの本質はならずもの。ケダモノの群れを率いるはケダモノの王が相応しい。何より、

「何も変わらんさ」

 竜が言えば骸骨はこくりと頷いて。
 そう、何も変わりはしない。誰と敵対しようが、誰と轡を並べようが。

「さあて、それでは俺も行くとするか」
「大将自らか。先が思いやられるな」
「いやなに、戦とはいえ礼儀は必要だろう。少し挨拶を、とな」

 おどけるように肩を竦め、竜は翼を広げる。骸骨は溜息を一つ、

「程々にな」

 なんて言えば竜はくつくつと笑い、不意に振り返るその顔には凶悪な笑みを湛えて。空を震わす咆哮を一つ。竜は、彼方へと飛翔する。
 
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