□第七夜 灰燼のフロンティア
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7-2 灰色の盟友(1/2)

 
 開け放たれた扉のその先、無人の暗がりへ置いた視線をゆっくりと下ろす。足元へ落とした視線が石畳に穿たれた穴を一瞥し、そうして竜は――ダークドラモンは静かに息を吐く。

「追わぬのかえ?」

 問う声に、竜は目もくれてやらず大袈裟な溜息を一つ。

「追う、だと?」

 なんて不機嫌に返せば声の主、氷柱に浮かぶ色欲の魔王・リリスモンはさも楽しげに笑う。

「ほほほ、詰まらぬことを聞いたのう」

 音もなく、姿もなく、気配もない。そんな相手を追うなど愚の骨頂。労力の無駄でしかない。そんなこと、ようく知っているとも。
 ち、と舌を打つ。竜はゆっくりとその視線をリリスモンへ、そうして忌ま忌ましげに、

「何を吹き込んだ……いや、何をした?」
「おや、それは何の言い掛かりかえ?」

 リリスモンの言葉に竜は眼光鋭く、槍を携えた右腕は吹き上がる怒りをかろうじて留めるように小さく震える。

「惚けるな……! レイヴモンに――我らが盟友に何をしたのかと問うているのだ!」

 でなければ何故、どうして奴はあの人間を助けるのだ、と。あるいはその真意を、知った上でのそんな問い。ふふと、微笑むリリスモンはまるですべてを見透かしたように竜を見据える。
 ぎり、と歯軋り。竜はその右腕を怒りのままに眼前の氷柱へ叩きつける。振動と轟音が波紋のように広がり闇に溶ける。

「おやおや……“護る”ために連れ去ったのではないのかえ?」

 反響する音の余韻の中、リリスモンは眉一つ動かすことなく問う。同様に、何事もなく佇む氷柱を、眠る蝿の王を一瞥し、竜はゆっくりと頭を振る。

「……護る? ああ、そうだとも。だがこれは守護ではない、保護だ。不甲斐ない魔王などこうしてオブジェにでもなっていたほうがよほど世界のためだ」

 それは静かな、怒号。自らの正しさを主張するように、確かめるように。

「じゃが、あ奴はそうは思っておらぬようじゃのう?」

 だからこそ、そんなリリスモンの言葉は耳に刺さるようで。竜は歯噛み、沈黙。しばしを置いての問いはどこか穏やかですらあった。

「一つだけ、嘘偽りなく答えてくれ」
「おや、何かえ」
「あれはすべて、レイヴモンの意志か」
「ほほほ……心身とも、あれほどの猛者を傀儡になどできようか」

 リリスモンの言葉にまた僅かの沈黙。そうか、とだけ返し竜は、冷たい眼で彼方を見遣る。
 
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