□第七夜 灰燼のフロンティア
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7-1 運命の交錯(2/2)

 
 雑音が聞こえた。小さくか細く、けれども強く。それは死の瀬戸際で足掻く、か弱い虫けらの羽音のようで――

 不意に耳を衝いたノイズはどこか聞き覚えのあるような……嗚呼、気分が悪い。頭は熱を帯びたよう。焦点も今一つ定まらない。

「……ミラージュ……ガオガモン」

 空を見上げて零すそんなレイヴモンの呟きも、言葉自体は嫌にはっきりと聞こえているというに、まるで頭の中を素通りしていくかのよう。私はそのまま、頭を抱えてうずくまった。
 そんな様子に気付いたか、駆け寄るレイヴモンの声と気配を背中に感じる。ものの、どこか感覚は希薄で、どこからか響くノイズだけが次第に大きく強く、私の世界を満たしていく。

 ぎゅ、と、震える体を自ら抱きしめて。もはや頭だけじゃない。全身を満たすようなそれは、時に規則的に、時に変則的に、どこか不器用な旋律を刻むよう。そう、それはまるで、

「音、が――」
「っ! 今、何と?」
「音楽――メロディが、聞こえる」
「まさか……?」

 強く、弱く、速く、遅く、遠く、近く。まるで掴み所がなく、まるで現実味がなく、それでも確かなそのメロディ。俺はここにいる。俺はここに生きていると、底の無い闇の中から叫ぶような。

「あ……う、あぁ……!」
「これは……! お気を確かに!」

 頭が痛い。頭が割れる。頭が痺れて――助けを求めるように、求める助けを確かめるように。闇へ手を伸ばし、闇に揺れる蜘蛛の糸を手繰るように。ふらふらと、夢遊病さながら足は荒野を彷徨って。

「インプ……モン?」

 足が止まる。ちょうどそれは騎士のいた辺り、騎士の爪が造った小さなクレーター。
 地に手を伸ばす。まるで空気のように抵抗なく手は灰の荒野へと沈み――“それ”へと届く。きゅ、と、力弱く私の手を握り返す“それ”。その名を呼んで、私はゆっくりとその手を引き揚げた。

 傍らでレイヴモンが息を呑む。まるで信じられぬとでも言いたげに。掬い上げた“それ”を抱え、私は深く息を吐く。私の腕の中で“それ”は――インプモンは眠るように静かにただ黙し、微動だにしない。それでも確かな命のリズムが腕を伝い、私は、意図せず笑みを零した。耳鳴りは、いつの間にか止んでいた。

「命の旋律……デジメロディ。やはり貴女は――」

 そんなレイヴモンの言葉はどこか遠く。私の意識は、まどろみへと沈んでゆく――
 
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