□第七夜 灰燼のフロンティア
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7-1 運命の交錯(1/2)

 
「ミラージュガオガモン!」
「……大丈夫だ」

 駆け寄る天使をただれた腕で制し、騎士は搾り出すような声で言う。片腕は地に着いたまま、膝は折れたままに。虚勢であることは火を見るより明らかだった。だというのに、

「先に行ってくれ。すぐに追う」

 なんて物言いも嗚咽混じり。何を言っているのだと天使は手を貸そうとするも、それでもなお騎士は毅然と、

「まだ終わってなどいない」

 と、そんな言葉は彼方の空を仰いで。天使は一瞬の躊躇い。しかしこくりと頷き翼を広げた鳳凰に、倣うように踵を返す。嗚呼そうだ。ようやく見付けた奴らの本拠地を、奪われた魔王の肉体を目前に、立ち止まる隙などない、と。天使は言い聞かせるように奥歯を噛む。

 そうして天使と鳳凰は地を蹴り、じきに戦いが始まるであろう戦場へと飛び立った。残された騎士はその後ろ姿を見送ると、荒い息を整え、おもむろに立ち上がる。
 灰から爪を引き抜く。見上げた空、天使と鳳凰の姿はやがて見えなくなる。爪を見遣り、こぼれ落ちる灰を静かに見詰め、騎士はゆっくりと目を閉じる。

 この裏切りに、後悔など許されない。贖罪など許されない。道は、ただ前にしか無い。

 ゆっくりと目を開き、騎士は次なる戦場へと発つ。


 ――と、そんな姿を横目に、私は震える手を口元からゆっくりと下ろす。

 天使を、鳳凰を、騎士を、その背を黙して見送り、そうしてようやく私は深く息を吐く。

「行った……?」
「の、ようで」

 恐る恐る問えば、レイヴモンはそう言って姿隠しを解く。私は数歩を進み、灰色の空を仰いだ。どうやら最後の最後まで私たちには気付かなかったようだ。とは言っても、私たちが辿り着いたのも今し方。天使と鳳凰が飛び立った、その直後のこと。

 ふらりと、膝を着く。遅かった。余りにも、遅すぎた。

「インプ……モン……」

 鳳凰は私たちに気付かなかった。インプモンと別れた時もそう。それは鳳凰の言う微かな邪気とやらが、魔王の化身であるインプモンのことであったがゆえ。つまり、

「死んだ……の?」

 私を逃がすために囮となって、私を逃がすために傷ついて、私を逃がすために――。知らず、体が小さく震えた。レイヴモンは何も言わなかった。

 嗚呼、頭が痛い。悪夢の元凶がいなくなったというに。耳鳴りがする。気分は最悪。まるで……悪夢のようだった。
 
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