□第七夜 灰燼のフロンティア
11ページ/13ページ

7-4 対岸の情景(2/3)

 
 私の言葉にレイヴモンは一瞬の沈黙。その面持ちはどこか意を決するように僅か強張り、やがて騎士はおもむろに片膝をつく。頭を垂れるその様からは、いかなる謗りも裁きも受け入れんとする覚悟が見て取れた。

「何なりと」

 戦場を一瞥する。再びレイヴモンへ振り返り、私はゆっくりと膝をつく。眼前にその顔を見据え、そうして、

「あの青い鎧のデジモン……ミラージュガオガモン、って呼んでたっけ。それに、ダークドラモン。あれは貴方の……」

 脳裏に浮かぶ、記憶。去り行く獣頭の騎士の名を呼ぶ彼、去り行く彼に何故と問うた闇の竜。
 レイヴモンはこくりと頷いてみせた。

「ご想像の通り。我々はかつて、志を共にした盟友。そして……我らこそが神に弓引くゼブルナイツ、その始まりの三騎士にございます」

 始まりは、小さな火種。
 各地で暗躍する天使たち、水面下で進む軍拡。その不穏な動きを察し、立ち上がったのが予てよりの同志であった獣騎士と、レイヴモン。
 そこで語る口を一度止め、レイヴモンは私を見遣る。

「そのゴーグルに、御召し物……あの村にお立ち寄りになられたのでしょう」
「え? ゴツモンたちのこと……」
「ミラージュガオガモンとは、幼少の砌を共にあの村で過ごした同郷の士にございます」

 リリスモンの城から程近いあの小さな村は、リリスモンの領地に点在する幾つもの集落の一つ。とはいえ、彼らは魔王の支配下にあるわけではない。そもそもリリスモンがあんな荒野のど真ん中に居城を構えたのは、語り継ぐ記録も記憶も残っていないほどの大昔。後からやって来た彼らは、自らの意思でそのお膝元に“住まわせて戴いている”のだ。
 それは誰が、いつ頃、どのような経緯で始めたか定かではないが、確かなのは彼らが、魔王の“庇護”を求めて集まった弱者であるということ。無論リリスモンが彼らのために動くことなどありえないのだが、そこに目的も実力も未知数の魔王がいるというだけで、彼の地はこれまで一度も戦火に晒されることなく平和を保ってきたのである。
 そんな平和の形を知るがゆえ、レイヴモンたちは魔王と敵対する天使たちの思想に疑問を抱いたのであろう。

「だから、インプモンのこと……」

 これほど多くを敵にしてなお。問えばしかし、レイヴモンは口端に小さな笑みを浮かべてゆっくりと首を振る。

「それも一つ。しかし某は――」
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ