□第六夜 青銅のリベリオン
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6-4 静動の反逆(1/3)
走り、跳び、駆けて。
吠え、叫び、轟いて。
車軸が軋む。骨子が軋む。黒鉄が血に染まり、指先が炎に黒ずむ。
「この程度の技で……舐めるな!」
疾走するベヒーモスの上からインプモンの乱れ撃つ、小さな火球はそのことごとくが天使の剣に、鳳凰の爪に掻き消される。騎士に至っては意に介してもいない。“ナイト・オブ・ファイアー”――握り拳大の火球を指先から放つこの技は、“サモン”のように魔法陣を必要とはせず、現状でインプモンに残された唯一の攻撃手段。であるが、速射性という利点は低火力という欠点があるゆえ。
ち、と舌打ち。それでもインプモンは手を止めない。例え意味はなかろうと、悪あがきにさえなっていなかろうとも。例えそれが、満身創痍の我が身に鞭を打つだけであろうとも。
目が霞む。意識が薄らいで、小さな火球の制御すらままならない。もはや狙いも定まらず、火の粉は自らへ返る。それでも、それでも――
未だこの命があるのは、ベヒーモスの回避能力とリリスモンの防壁ゆえ。自身の命というに、自身の誇りというに。僅かも己の手には委ねられぬというのか。無力……なんて無力。俺は、なんて無力だ……。
「――捉えた」
鳳凰の火炎を辛くも避け、腕を掠める天使の剣から逃れ、そうして、獣頭の騎士のその腕に捕われる。
騎士の左腕がインプモンの小さな体を握り潰さんばかりに締め上げる。同時にふるわれた右腕の爪に、宙を舞ったベヒーモスは鉄屑のように荒野に転がり、異音を立てながら煙を吹く。
万策尽きた。のは、元よりか。
思わず零れた笑みは自嘲。灰色の空を見上げ、やれやれと溜息を吐く。
嗚呼、何をやってるんだろうなぁ俺は。戦って、戦って、戦い抜いて。戦いだけが生きる喜びで、戦いだけが生きる意味で、戦いだけが――生きることそのもの。だったはずが。
「ヒナタ」
「……何?」
どうなったろう。無事だろうか。無事……無事かって? どうして俺は……?
「貴様は……」
なんだこれは。この感情は。俺はどうした。どうなった。
ずきりと、頭の芯が痛む。頭蓋を割って撹拌棒でも突っ込まれたようだ。電脳核がノイズを立てる。気分は最悪。焦点の定まらぬ目がふらりと彷徨い、不意に眼前の騎士を捉える。嗚呼、そうだ。気分だけじゃあなかったな。ヒナタの言葉を借りるなら、そう――
「悪夢だ……」