□第六夜 青銅のリベリオン
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6-3 鏡像の魔王(3/3)
突然の声は闇の中から。地下室に反響するその声色と口調には聞き覚えがあった。はっと、眼前に立つ氷柱を見上げる。音源は氷柱に眠る魔王、ではなく、氷柱そのものの表面から。映写機で投影したように薄く氷に浮かぶその姿は、
「リリスモン」
呟くように名を呼ぶは竜。半ば呆れ、半ば不機嫌そうに、竜はやれやれと肩を竦める。
「それが噂に聞く氷鏡の幻術か。喰えん女だ」
「ほほほ。どこで聞いたか知らぬが……安心せい、ただの交信魔術じゃて」
「どうだかな。どこに貴様の傀儡が紛れているか分かったものではないわ」
宥めるようで、どこか小馬鹿にしたようなリリスモン。吐き捨てるように竜は毒づく。そんな二者の掛け合いはしかし、第三者である私にはまるで意味の分からないことばかりだったが。眉をひそめる私にリリスモンはふふと妖しげな微笑を投げ掛けて、意味深な視線は言外に何かを訴えるようだった。
あ、と。私が口を開くか開かぬかというところで、リリスモンは視線を竜へ戻し、遮るように言葉を続けた。
「まあそれはさておき……それより今は、他に気を遣るべきことがあるのではないかえ?」
くいと首を傾げ、微笑。竜の反応からしてさておけるような話でもなさそうだが、正論と言えば正論。時間がない、とは竜の言葉だ。
竜は舌を打ち、溜息を一つ。
「ふん。まあいい。先ずは用件を聞こうか。いや、察するに――」
「“これ”の正体、かえ?」
手にしたキセルで指すのは真後ろ。氷に眠る蝿の王。
「やはり初めから知っていたな」
「おやおや、それは買い被りが過ぎるえ? 未だ推測の域も出ぬよ。それさえ当人とまみえてようやく、のう」
「なら――」
言葉を促すように竜。と、ただただ困惑する私。リリスモンはふうと紫煙を零し、
「恐らくは、エイリアス」
そう言って彼方へ目をやって。リリスモンの言葉に、竜はさして驚く様子もなくただ小さくふむと唸る。
「……エイリアス?」
思わず漏れた言葉は私の口から。エイリアス――確か「別名」なんて意味だったか。それが正体?
「要は、不出来な偽物に過ぎんということだ。あの、インプモンとはな」
呟きに答えたのは竜。言うが早いか槍を振り上げて。何を……え? 偽物、って――
「つまり……嗚呼、残念だが、やはりここで死んでくれ」
そして狂気は、私の頭上より降る。