□第六夜 青銅のリベリオン
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6-3 鏡像の魔王(2/3)

 
 冷たい風が肌を刺す。開け放たれた重い扉のその先に、冷気の源とおぼしき“それ”が姿を見せる。

「何……誰なの?」

 燭台に照らされた薄暗い部屋へ恐る恐る足を踏み入れる。見上げたそれはぴくりとも動かず黙し、ただそこに在るだけ。
 暗がりに少しずつ目が慣れてくる。だだっ広い地下室の中には、闇の竜より高くそびえる氷の柱。その円周には燭台が並び、それ以外は何もない。そして氷柱の、その中に浮かぶのは、

「デジモン……?」

 黒のボマージャケットに濃紺の仮面。額の目や尾を除けばその姿、造形は人のそれに近い。だと言うのに、猛々しく吠えるように双眸を見開き、牙を剥く様はまるでケダモノのよう。

「そう、これこそが奴らの狙い。我々が奪い去ったこれを取り戻そうと奴らは躍起になっているのだ」
「……生きてるの、これ?」

 そろりと問えば、返ってくるのは小さな溜息。ややを置いて、竜は静かに言う。

「我々も、それが知りたいのだがな」
「え?」
「どう思う?」

 と、私を見下ろし竜が問うも、どうって……はい?

「あの……え? それは、どういう……」

 戸惑う私に竜は視線を氷柱へ、そこに眠るデジモンへ向け、ぽつりと言った。

「ベルゼブモンだ」

 なんて、そんな言葉に一瞬思考が止まる。告げられたその名を記憶から探る。知っているはずのそれを思い出すのに数秒を要したのは、知っていたから故。

 蝿の王。暴食の魔王。そう呼ばれたそれは、

「インプモン……なの?」

 元に戻れた? どうしてここに? 一体、何が……?

 疑問符が頭に躍る。眉をひそめて竜を見上げれば彼はゆっくりと首を振る。

「奴なら今頃、天使どもとまみえていよう。結論から言うなら、“これ”と“奴”は別個に存在している」
「どういうこと……?」
「さて……封印された物言わぬ魔王に、自らを魔王と名乗る謎のデジモン。何がどうなっているのか、知りたいのは我々のほうだ」

 肩を竦め、深い溜息。ここにいるのがベルゼブモンで、ここにいないのもベルゼブモン。嗚呼、もう訳が分からない。
 氷柱に近づきそっと手を触れる。言われてみればどこか見覚えのある、インプモンにも似た面影。混乱。困惑。頭の芯が震え、耳鳴りがする。――と、

「ではここよりは、わしが語るとしようかのう」

 そんな声は不意に、薄暗い地下室の内から響いた。
 
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