□第六夜 青銅のリベリオン
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6-2 追撃の青藍(3/3)
仄暗いこの空にあってなお、その青藍はまばゆく。微かな陽光を照り返し、ぎらりと強く、されど静かな光を湛える。青く、碧く、蒼く。広がる深き海の如く、凍てつく寒空の如く。青の甲冑をまとうその姿は騎士のようでありながら、頂に抱くは獣のそれ。
「魔王ベルゼブモン殿とお見受けする。私の名はミラージュガオガモン。以後、お見知り置きを」
そう言ってゆっくりと、空より降り来る獣頭の騎士。その両腕には痛々しい火傷にまみれた天使と鳳凰。ああ、生きてやがったか。どうやら倒せたのは雑魚どもだけ。自嘲の笑みを浮かべ、インプモンは軋む体に鞭を打つ。
「……随分と、遅い登場だな」
「余り喋ると傷に障るぞ」
「舐めるな。かすり傷だ」
灰の荒野に降り、インプモン同様、否、それ以上に傷を負った体で、天使と鳳凰はおもむろに立ち上がる。口を衝くのが虚勢に過ぎぬことなど誰の目にも明らかだったが、それでもその眼差しは強く、戦意など微塵も失ってはいない。
インプモンは溜息を一つ、精一杯の力を振り絞るように声を張った。
「よう、無事で何よりだ。かすり傷は痛むかい?」
「……挑発のつもりか? それとも時間稼ぎか?」
「意気がるな魔王。もはや手は無かろう」
口々に言う天使と鳳凰。インプモンはそれでも余裕たっぷりの笑みを浮かべ……る、ものの。さて、どうしたものだろうか。こうしてただ喋るだけでも呼吸が荒くなる。頭は針でも刺さったように痛み、四肢は末端から徐々に感覚が薄れていく。
残る手は、今しがた吹き飛んだ魔法陣を修繕してみる、くらいか。先程のような速度に今の自分の体がついていけるか、奴らが同じ手にもう一度まんまとはまってくれるか、というクリティカルな問題点に一抹の不安を覚えるが。
思考、そして決意。インプモンは覚悟を決めるようにその目に火を点す。撤退や援軍などという言葉ははなから抜け落ちていた。
生も死も、勝利も敗北も二の次。そこにあるのはただ戦い。それは過程ではなく、手段ではなく、それこそが結果であり、目的なのだ。それが魔王ベルゼブモン。その本質――で、あるはずが。
「やはり、お前は」
呟きは天使や鳳凰の耳にさえ届かぬほど小さく。だが、と続けた言葉は音にすらならない。獣頭の騎士は眼前に在る魔王を見据え、その手に力を込める。選択の時。選ぶべきは、求めるべきは過去か、未来か――