□第六夜 青銅のリベリオン
4ページ/12ページ
6-2 追撃の青藍(2/3)
後方から迫り来るは青い鎧の天使。前方に立ち塞がるは金色の鳳凰。そして左右に展開する雑兵ども。前後左右からの包囲網。もはや逃げ場はない――とでも?
馬鹿が。
思い違うな。見くびるな。この俺を、この魔王を。一体誰が、
「逃げるって?」
不敵に笑い、インプモンは天を指すように片腕を掲げて。
少しだけ、ほんの僅か遅かった。ここだ。この場所が終着。ここで、完成だ。さあ……一緒に地獄を見やがれ!
「サモンっ!!」
吠えるその手に魔法陣はない。残弾はゼロ。けれど“それ”はそこにある。たった今、この場に、描き出されたのだ。
眼下に走る光の筋。追撃者ははっと息を呑み、その正体に気付くも、もはや遅い。先の言葉が己へ返る。もはや、逃げ場はないのだ。
灰の大地をぐるりと回るようなベヒーモスの走路、その軌跡。ベヒーモスが刻むわだちは、描く紋様は――
閃光。否、光と見紛う程の業火。鉄の獣の足跡が灰の大地に描き出す巨大魔法陣が瞬いて、地の底より喚起される炎が天を衝かんばかりに立ち昇る。
ごう、ごうと。灰を削り、空を焦がし、命を焼き払う――
「……っ、っはぁ!?」
息を深く吸う。急激に供給された酸素にむせ返る。喉が痛い。肺も痛い。肩で荒い息を吐き、霞む目で辺りを見渡して、インプモンはずきずきと痛む頭を抱える。何が……、
「ベ、ヒーモス……か?」
奴らを魔法陣の内側に誘い込むため、自らを囮に。避ける間も術もない。自分もろとも、自爆覚悟の一撃。の、はずが。
体中ちりちりと煙を上げ、内蔵までこんがりと焼かれた気分だが、どうやら、まだ生きているらしい。ベヒーモスでも間に合うとは思えない絶望的な間合いだったが、
「……あのババア」
不意に視線を落とす。目に留まったのはベヒーモスの車体。その黒鉄にうっすらと浮かぶ幾何学模様。自分が扱うものとは式も言語も違い、恐らく、程度にしか読み解くことは叶わなかったが、これは、紛れも無く魔法陣だ。
単純に考えて防壁の魔術。洗車はこれを仕込むためか。いや、何にせよ、
「借り一つだ……」
げんなりと呟く。何にせよ、これに助けられてしまったことは確かだ。
ふう、と息を吐き、辺りを見渡す。さて、ともかく今は奴らの――
「どこを見ている」
巡る視線が凍る。聞き慣れぬそんな声は冷たく、灰の空より降った。