□第六夜 青銅のリベリオン
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6-2 追撃の青藍(2/3)

 
 後方から迫り来るは青い鎧の天使。前方に立ち塞がるは金色の鳳凰。そして左右に展開する雑兵ども。前後左右からの包囲網。もはや逃げ場はない――とでも?

 馬鹿が。

 思い違うな。見くびるな。この俺を、この魔王を。一体誰が、

「逃げるって?」

 不敵に笑い、インプモンは天を指すように片腕を掲げて。
 少しだけ、ほんの僅か遅かった。ここだ。この場所が終着。ここで、完成だ。さあ……一緒に地獄を見やがれ!

「サモンっ!!」

 吠えるその手に魔法陣はない。残弾はゼロ。けれど“それ”はそこにある。たった今、この場に、描き出されたのだ。
 眼下に走る光の筋。追撃者ははっと息を呑み、その正体に気付くも、もはや遅い。先の言葉が己へ返る。もはや、逃げ場はないのだ。

 灰の大地をぐるりと回るようなベヒーモスの走路、その軌跡。ベヒーモスが刻むわだちは、描く紋様は――

 閃光。否、光と見紛う程の業火。鉄の獣の足跡が灰の大地に描き出す巨大魔法陣が瞬いて、地の底より喚起される炎が天を衝かんばかりに立ち昇る。

 ごう、ごうと。灰を削り、空を焦がし、命を焼き払う――

「……っ、っはぁ!?」

 息を深く吸う。急激に供給された酸素にむせ返る。喉が痛い。肺も痛い。肩で荒い息を吐き、霞む目で辺りを見渡して、インプモンはずきずきと痛む頭を抱える。何が……、

「ベ、ヒーモス……か?」

 奴らを魔法陣の内側に誘い込むため、自らを囮に。避ける間も術もない。自分もろとも、自爆覚悟の一撃。の、はずが。
 体中ちりちりと煙を上げ、内蔵までこんがりと焼かれた気分だが、どうやら、まだ生きているらしい。ベヒーモスでも間に合うとは思えない絶望的な間合いだったが、

「……あのババア」

 不意に視線を落とす。目に留まったのはベヒーモスの車体。その黒鉄にうっすらと浮かぶ幾何学模様。自分が扱うものとは式も言語も違い、恐らく、程度にしか読み解くことは叶わなかったが、これは、紛れも無く魔法陣だ。
 単純に考えて防壁の魔術。洗車はこれを仕込むためか。いや、何にせよ、

「借り一つだ……」

 げんなりと呟く。何にせよ、これに助けられてしまったことは確かだ。

 ふう、と息を吐き、辺りを見渡す。さて、ともかく今は奴らの――

「どこを見ている」

 巡る視線が凍る。聞き慣れぬそんな声は冷たく、灰の空より降った。
 
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