□第六夜 青銅のリベリオン
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6-2 追撃の青藍(1/3)
「サモン!」
ベヒーモスに逆向きに跨がり、インプモンは掲げた魔法陣から次々に火炎を射出する。追撃する編隊は咄嗟に回避行動を取るものの、ベヒーモスによって巻き上げられた砂に砲手の姿は紛れ、タイミングも射線もロクに読めぬとあっては避けるも容易ではない。おまけにこの間合い。つかず離れず、同じ方向に同じ速度で進むなら、相対的な速度はほぼゼロ。静止しているに等しい標的、狙い撃つなど、容易なこと。
結果、撃ち出される炎は僅かずつではあるものの、追撃者を確実に削り、消耗させてゆく。――の、だが。
ち、と舌打ちはお互いに。
インプモン最大の技である“サモン”。この技の欠点は、その速射性・連射性の無さにある。あらかじめ魔法陣を用意する必要があることと、一度使った魔法陣は自らの技の反動に原形をほぼ留めず、再利用がまず不可能であるという、その二点。
つまり――消耗は、お互い様。
「ホウオウモン!」
「ああ、分かっている」
そんな短いやり取りと一瞬のアイコンタクト。天使と残る兵はそのままインプモンを追跡し、鳳凰だけが突如進路を変える。その様子はインプモンからも窺い知ることはできたが……ただでさえ視界の悪い灰の荒野。ベヒーモスが巻き上げる灰が拍車をかけ、鳳凰の姿は瞬く間にインプモンの視界から掻き消える。
二度目の舌打ちは、インプモン。天使は僅か口角を上げる。表情なんて見えはしないものの、途切れた砲撃が逃走者の動揺と焦燥を如実に表す。
分かっているぞ魔王。先程から撃ち出される炎、その特性も欠点もほぼ把握した。真正面からまともに放ち、我ら究極体を死傷させるほどの弾速と火力は、ない。となれば、
天使はちらりと後方を一瞥する。鉄の獣の足跡は緩やかな曲線を描き――そう、これはただの逃走ではない。奴はこの地に我らを足止めしている。これは、時間稼ぎだ。恐らくは姿を消した奴のテイマーが、援軍を連れて戻るまでの。――浅はかな。
援軍はこちらとて同じこと。第一、
「逃がさん」
そんな言葉はインプモンの背後、つまりは進行方向、前方から。
遠く離れてしまえば援軍の到着も遅れる。奴はこの地に、この周辺に留まり続けなければならない。自律稼動する鉄の獣、その行動パターンの予測――先回りは、そう難しくない。
前門の鳳凰、後門の天使。この挟撃、もはや逃げ場はない!