□第六夜 青銅のリベリオン
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6-1 邀撃の緑青(1/1)

 
 闇が形を持って受肉した、とでも形容すべきか。阿鼻叫喚を背負う破壊と殺戮の権化、闇の竜。その一挙一動に大地がえぐれ、大気が震え、命が消し飛ぶ。
 さながら地獄の底より這い出て天に唾吐くようなその様は、ならずもの、と称するには余りに役が足りぬように思えた。

「あれが彼らの長。名を、ダークドラモンと」

 敵も味方もない、とさえ思えるほどに暴虐の限りを尽くす眼前の破壊者。言葉を失う私に、レイヴモンが言う。あれこそが、自分たちの目的なのだと。
 ああ、確かにそうだ。私は彼に会いに来た。来たけれど、あんな無茶苦茶な奴を相手にこんな状況で何をどうしろと……。

 そんな私の困惑もお構いなしに戦いは続いて――

 闇の竜が右手に携えた槍を以って破壊を撒き散らす。と、そこへ。戦場の空を翔け、竜へと迫る閃光。咄嗟に繰り出された竜の槍とぶつかり合い、鋭い音とともに火花を散らす。瞬間、その姿があらわになる。あれは……確か行軍の先頭にいた、

「クロスモンか」

 地の底から響くような声は、ダークドラモン。槍を構え、狂気に似た笑みとともに続ける。

「よう、随分好き放題やってくれたな。愛すべき同胞がゴミ屑みてえになっちまったじゃねえか」
「……好き放題は貴殿とて同じこと」

 そして閃光の主、クロスモンと呼ばれた黄金の鎧をまとった巨鳥が答える。両者の視線が矢のように鋭く飛び交い、竜が再びにやりと笑う。

「なら……お互い弔い合戦といくかぁ?」

 戦意がたぎり、殺意が燃える。一触即発。息苦しいほどに空気が張り詰めて……しかしその緊張を破ったのは、当のクロスモンだった。ふう、と溜息を吐いて、

「否、止めておこう。これ以上はいたずらに兵を浪費するだけ」

 そう言って羽ばたき、上空へ距離を取ると、クロスモンは笛の音に似た咆哮を上げ、その全身を発光させる。撤退の合図であろうその一連の所作に、周囲のデジモンたちは次々に飛び立ち、戦場を後にしていく。残された“ならずもの”たちにそれを追う様子はなかった。

「やれやれ、今日も痛み分けか」
「余り挑発するな。肝が冷えたぞ」
「全くダ」

 竜が肩をすくめ、咎めるように言ったのは赤い骸骨と青い怪人。反省しているのかいないのか、竜はくつくつと笑い、さて、と空を仰いで、

「いい加減出てこい。いるんだろう?」

 そう、私たちに言うのであった。
 
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