□第六夜 青銅のリベリオン
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6-4 静動の反逆(2/3)

 
 伸ばした腕に力を込める。後少し、ほんの少し。たったそれだけでこの小さな体は容易くへし折れてしまうだろう。けれど、

「一つ、質問がある」

 インプモンを捕らえるその手を緩めることなく、獣頭の騎士は静かに問う。眉をひそめたのはインプモン、と、天使や鳳凰もまた同様に。騎士は僅かを置いて言葉を続ける。

「貴様は、自分が何者かを知っているのか?」
「なに、を……?」

 そんな質問の意味はまるで分からぬと、問われた当人は疑問符を浮かべて。

「何を言っている、ミラージュ――」

 その意図は何だと天使が口を挟む。しかし騎士はそれを遮るように、

「倒して仕舞いであればとうに終わっていた。違うか?」
「それは……」
「前轍を踏み続ける訳にもいくまい」

 そんなやり取りにインプモンは眉間に深いしわを寄せるばかり。何言ってやがるこいつら。何者? 俺が何者かって? 分かり切ってるからこうなってるんだろうが。一体、何を……。

「答えろ。貴様は……何者だ?」

 インプモンの困惑も余所に、獣頭の騎士はその腕を高く高く掲げて、射殺すような視線が真っ直ぐにインプモンを貫いた。天使と鳳凰もまた各々の武器を構えたまま、返答を待つように黙してその様を見守る。

 けれど――当人にしてみれば待たれたところで返せる答えなどあるわけもなく。だから、何がどうなってやがる。俺だけほったらかしで話進めんじゃねえよと、毒づく声さえ掠れて消えて。頭が痛い。意識が朦朧とする。頭の奥からノイズがかった声が響く。いよいよ幻聴まで聞こえだしたか。

 ――ンプモン――
 ――くは――リアス――

 嗚呼、いやにはっきりとした幻聴だ。よりにもよってあのババアと、ヒナタの声まで聞こえやがる。
 霞の奥から雑音に紛れて響くような声は、一つ、二つ、三つと、まるで聞き覚えのない声まで混じり――電脳核がイカれだしたか。死の兆しだろうか。俺は……死ぬのか。

 頭が焼ける。耳が裂ける。目が爆ぜる。臓器が混ぜ返り、体の中から自分が違うものへと変わっていくよう。眼前にいるはずの騎士たちの声も姿ももう定かでない。

 何だこれは。どうして俺は――。どこだここは。今はいつだ。俺は……誰だ。

 ――――っ!

 途端に頭が冴える。視界が澄んで、心は昂って。目の前には狼狽する敵、この手には滾る炎。そうして荒野が、光に溺れる。
 
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