□第五夜 赤枯のジャーニー
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5-2 暗中の道標(1/1)
デジタルワールドとは、リアルワールドをトレースして創られた、言わばもう一つの地球である。その形状、大きさは寸分違わず地球と等しい。尤も、それは外観の基本骨子、枠組みに限った話ではあるが。
地球の地表に相当する物理レイヤの荒野、その下層に位置するマントルに当たる部分には、デジタルワールドでは“小世界”と呼ばれる小さなレイヤが点在している。球形の小世界レイヤはまるでブドウのように連なり、様々な独自の自然、生態系を形成している。
道すがら聞かされたそんな話を走馬灯のように思い出し、私は力の限り絶叫した。
向かうはとある小世界。現在地は物理レイヤの荒野。の、どこかにある、底の見えない大穴の中。ただいま、絶賛落下中である。
「はははは。元気だなヒナタは」
「ふむ。しかし程々にされませぬと喉を痛めるかと」
涙目で叫ぶ私を横目に、インプモンとレイヴモンは口々にそんなことを言う。というかなんで落ち着いてるのこいつら。私? おかしいの私? 合ってるのこの道で? というか道なのこれ?
「ここっこれっ!」
「どうしたヒナタ」
「だだ大丈夫なのこれえ!?」
どうしたもこうしたも。大穴を前にするやいなや、何の説明も躊躇もなく飛び下りやがって。これが叫ばずにいられるものかと私は声を大にして言いたい。
「心配するな。こう見えてベヒーモスは結構丈夫だ」
私が問えばインプモンは爽やかなサムズアップとともにそう答える。うん。違うから。私が聞きたいのはそれじゃないから。そうじゃなくて、
「わ、私はぁ!?」
これでもかと声を振り絞る。するとインプモンは今正に気付きましたとばかりぽんと手を打って。わざとか。わざとだな。私が嫌いなのね? 私も嫌いだともこの悪魔ぁ!
「そう言えばヒナタは生身の人間だったな」
「今頃!? 遅いぃ!」
「む。そろそろ出口のようで」
「もう!? 早いぃ!」
「はっはっは。ヒナタはおもしれーな」
殴ってやる! ぶん殴ってやるう! この悪魔あ!
暗い暗い穴の底。ぽつりと点った光が次第に大きく――と、思えば不思議な電子音が耳を衝き、辺りが電子基盤に似た蛍光色の幾何学模様に包まれる。ぴりりと、肌を撫でる静電気のような僅かな刺激。
けれどそれも束の間。一拍を置いて、今度は視界がホワイトアウトする。
そうして私たちが辿り着いたそこは――