□第五夜 赤枯のジャーニー
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5-3 枯野の行軍(4/4)

 
 周囲をぐるりと空から取り囲むのは様々なデジモンたちの混成部隊。デジャヴュ、ではないな。数はざっと三桁に届こうかというところか。そしてその中心には明らかに他とは別格の鳳凰。と、金翼の天使。

「よもや我らが先にまみえようとはな」

 そう言って天使は頭を垂れる。構えた剣がぎらりと輝いた。天使は私を見遣り、インプモンへと順に視線を移し、そしてはたと、

「……何?」

 そんな天使の驚愕の訳を、私が理解するのは遅れること僅か。理解と同時、ぐいと、不意に腕を引かれた。

「遅い」

 呟くような声は、一瞬の静寂を縫うように私の耳まではっきりと届いた。その声を追った視線の先、鳳凰の背の上でゆらりと空に溶ける影から白刃が伸びる。

 ひゅん、と、風を切る音。天使の首を刈らんとする死神の鎌の如く白刃が閃いて――

「ほう」

 と、感心するように白刃の主。問答無用に大将首を狙うレイヴモンの初撃を、寸でのところでかわし、天使はぎりりと奥歯を噛む。喉元へ迫る刃をのけ反るように避け、その体勢は余りに無防備。レイヴモンの口元が小さく笑みに歪む。

 刹那、白刃の軌跡をなぞるように白翼が躍り、否、僅か一歩を踏み込んで。太刀筋は天使の胸を逆袈裟に走る。

 秒の間の攻防。周囲の兵は勿論、背上という死角ゆえに鳳凰さえ即座には反応できなかったほどの。

「っ! 撃てぇ!」

 倒れゆく天使が血とともに吐き出したそんな叫びが引き金。瞬間、静寂が打ち破られる。

 鳳凰の翼から沸き立つ金の粒子が、狙いを定める間も惜しいとばかり、自らの背の上で爆発を引き起こす。仲間である天使を巻き込むことさえ厭わず。

 白煙が渦を巻き――と、思えば渦中より踊り出る影が二つ。

 ち、と舌打ちは誰のものか。確かめる間もなく躍る影が一つ・レイヴモンは逆手に構えた刀を掲げ、

「天之尾羽張」

 愛刀に語りかけるような、静かな声。応えるように刀身が瞬いて、灰色の空に、漆黒の雷がほとばしる。雷鳴が耳をつんざく。

 雷光は多頭の竜の如く複雑に分岐し、軍勢のことごとくを討つ。かろうじて逃げ延びたのは兵が僅か十と少し、そして鳳凰と、金翼の天使もまた存命。けれど、

「やってくれる……!」

 混乱に乗じて逃亡を図った標的の背は既に遠く、眼前にいたはずの敵も稲光に紛れ再び姿を消して――鳳凰は、忌ま忌ましげに舌を打つ。
 
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