□第四夜 紫煙のラスト・エンプレス
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4-3 魔王の物語(4/4)
「それで、お前の知ってることはそんだけか?」
少しの沈黙の後、腕組みをしてなにか考え込んでいたインプモンがリリスモンに問う。リリスモンはどこか人の悪い笑みを浮かべ、わざとらしく首を傾げてみせた。
「さて……なにぶんそなたの言う通り歳でのう。なんぞ、言い漏らしたこともあるやもしれぬが」
そう言ってふふと微笑む。インプモンが眉間にしわを寄せて溜息を吐いた。出会ってまだ数分だが、そんな私にも眼前の魔王が食えない人物であることくらいは分かった。
インプモンは再度深く息を吐いて、
「なら今度はこっちから聞く」
「ほう、それは妙案じゃのう」
なんて茶々にもめげずインプモンは続けた。私たちにとってはむしろここからが本題なのだ。
「俺は、何をされた?」
インプモンの問いにリリスモンは笑みを湛えながらふうと息を吐く。って、あれ? 何された?
「随分と雑な問いじゃのう。わしより、なんぞしおった者に直に問うてはどうじゃ?」
「いや、それができりゃそうして……ああ、なら聞き方変えるけど俺はどうすりゃ元に」
「あのー」
惚けているのか本当に知らないのか。望む答えを返してくれないリリスモンに、インプモンが少し苛立ったように食い下がり、そんな折。横合いから話の腰をへし折ったのは、外ならぬ私。や、そんなことより……。
「なんだよヒナタ」
「いや、だって……それより私が帰る方法を」
最初から言ってるけど、私、帰りたいだけだから。話を遮った私にインプモンは眉をぐにゃぐにゃ歪めて、わあ、変な顔。構わずリリスモンに視線をやれば、紫紺の魔王はさも楽しげに微笑んで、ふむと一拍を置き、
「そなたらは、如何にしてこの城より去る?」
「……は?」
思わずインプモンと声を揃えて。何を言って……?
「恐らくは先程歩んだ道筋をそのまま引き返してゆくのじゃろうて。それが何より明快な道程ゆえ、のう」
「……それってつまり」
先程のインプモンの問いへの答えが、いみじくもその通り。帰りたければ来た道を引き返し、戻りたければされたことをしかえせと。嗚呼、考えてみれば正論なのだけれど……身も蓋も無い。
「結局あいつらんとこ乗り込むっきゃねえのか」
そんな結論に、よくできました、百点満点ですとばかりリリスモンは微笑んだ。私は、がっくりと肩を落とす。嗚呼――
「悪夢だ……」