□第四夜 紫煙のラスト・エンプレス
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4-3 魔王の物語(2/4)

 
 傍らの瓶にそっと手を伸ばす。縁に置かれたキセルを手に取り、紫煙を燻らせる。そうしてリリスモンは、静かに語りはじめた。

「“アポカリプス・チャイルド”――彼奴らはそう名乗っておるそうじゃ」
「アポカリプス……?」
「神の密命を賜りし子羊、とでも言いたいのかのう。方々を駆けずり回りなんぞ画策しておるそうな。大儀なことよ」

 くすくすと、まるで他人事。
 魔王に次いで今度は神ときたか。話がどんどん大きくなっていく気がする。嗚呼、早く普通の女の子に戻りたいっ。

「画策? あいつら何しようってんだ?」
「さて、それはまだ定かでない。ゆえに、こうしてそなたを呼んだのじゃ」

 眉をひそめてインプモンが問えば、リリスモンは顎に手をやり微笑んで、そして言葉を続ける。

「答えよ蝿の王、その姿はなんぞ?」

 と、ああ、考えてみれば何よりの当事者。他に誰に聞けという話だ。
 しかし改めて問われると、そう言えば私は何も聞いていないと今更に思う。聞かなかっただけだけど。
 インプモンは困ったように頭をかいて、眉をひそめてううんと唸る。

「なに、って言われてもな。ベヒーモスで喧嘩相手探して走り回ってたら突然あいつらが……楽しく百人斬りした辺りまでは覚えてんだけど」

 色々突っ込み所はあったが、とりあえず今はスルーと決め、私は黙って続きを待つことにした。インプモンは記憶を捻り出すようにこめかみを指で突く。

「確か……光の柱みてえのが降ってきて。で、気付いたらこんなナリで、暗闇の中だった」

 ほう、と。リリスモンが小さく相槌を打つ。

「ゲートの中だったかもしんねえ。どんだけそうしてたか分かんねーけど、そのうちまた光が見えて……今度はリアルワールドにいた」

 そう言って、ちらりと私を見る。察した私はポケットからケータイを取り出す。

「で、これがその出口?」
「ってことらしい」

 聞いているのかいないのか。紫煙を燻らせ天蓋を見上げるリリスモンに、インプモンは口調を強めた。

「俺が知ってんのはそんだけだ。なにがどうなってんのかはこっちが聞きてえ。お前、他になんか知ってることねえのか?」

 ふう、と。紫煙を零し、リリスモンは私たちを見遣った。ケータイを持つ手に僅か力が篭る。そして再び紫紺が揺れて、

「ちと、昔話でもするとしようかのう」

 そう、艶やかな唇が語る。
 
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