□第四夜 紫煙のラスト・エンプレス
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4-2 魔王の招待(1/2)

 
 私がベヒーモスに跨がり、ベヒーモスが唸りを上げたとほぼ同時。レディーデビモンが再度ぱちんと指を打つ。小さく広げたその背の翼から黒い塵が舞い散って、虚空に翻り無数のコウモリとなる。

「え……なに?」
「鉄の獣はやはり目立ちますゆえ」

 私の問いに、そう言って黒の淑女は長い指を指揮棒のように振る。するとコウモリたちは私たちの周囲を旋回しながらやがて六つの群れに別れ、

「デコイでございます。上空からであれば多少の目くらましにはなりましょう」

 三度指を打つ。コウモリの群れは2メートル四方ほどの塊となって――なるほどこれは、私たちだ。ベヒーモスに跨がった私たち、のように見えなくもない黒い塊となり、六方へと走り去って、否、飛び去ってゆく。

 間近で見れば雑な造形ではあるが、確かに彼女の言う通り、上空からであれば判別は多少難しくなるかもしれない。
 まさにデコイ――囮というわけだ。

「お待たせ致しました。では、参りましょう」

 ぺこりと一礼し、翼を広げる。ふわりと浮き上がった淑女はまるでエスコートするように差す手で進路を示す。今更だけど見た目にそぐわないキャラである。

 私たちはベヒーモスを駆り、隣をわずか先立つ淑女とともに荒野を走り出す。再び砂煙が荒野の空に舞った。

「ところで、二人って知り合いなの?」

 走り始めて少し。沈黙に耐え兼ねて、というほどでもないのだが、私はふと思い出して後部座席のインプモンに問う。確か先程レディーデビモンはインプモンに久しぶりと言っていたけれど。

「ああ、何年か前にリリスモンの城に行った時な」
「あれ? 意外と仲良かったりするの?」

 なんて問えばインプモンは頭をかいて、

「そういうわけでもねえんだけど……まあ、ちょっと他に当てもなくてよー」
「友達いないのインプモン?」

 信用ならないババア呼ばわりしておいて。
 そう言えば魔王の癖して、こんなピンチに駆け付けてくれたのはベヒーモスだけだし。今のところ。

「ちょ……かわいそうな目で見んなよ。あれだ俺は、一匹狼だからな」

 そう言ってとんと胸を叩く。うん。まあ、なんだ。……これ以上は突っ込まないであげようか。

 私はふうと溜息を吐く。

 丁度そんな折。隣を飛んでいた淑女が私たちに声を掛ける。視線を戻すとやがて地平から、姿を見せたのは荘厳な城であった――
 
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