□第四夜 紫煙のラスト・エンプレス
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4-1 飛天の淑女(2/2)

 
 一見するとまるで人間のようにも思えた。黒衣をまとったその女性はしかし、病的に青白い肌と煌めく銀糸の髪、何より背に負ったその翼が、人ならざる者であると物語る。

 黒衣の女性は静かに一歩を踏み出し、ぱちんと、不自然に長い指を打つ。瞬間、宙を舞っていたコウモリが黒い塵となりながら女性の翼へと沈んでゆく。彼女は荒野を一歩ずつゆっくりと進み、

「ご無沙汰しております、ベルゼブモン様。突然の無礼をお許しください」

 私たちの眼前でその足を止め、社交界の淑女のようにうやうやしく礼をする。澄んだ鈴のような声は敵意など微塵も感じさせない。

 近くで見るとその黒尽くめの出で立ちは、とてもじゃないが天使には見えない。どちらかと言えばそう、その真逆。まるで悪魔のような――

「インプモン……この人は? それに、さっきのコウモリは……」

 飛び降りたインプモンに続いてベヒーモスから降り、ぽそりと問う。インプモンは私を一瞥して小さく笑った。

「あれは色欲の紋章――リリスモンの紋章だ。つまり……」

 促すようにインプモンが視線をやると、黒衣の女性はついと私を見遣り、

「お初にお目にかかります。私はレディーデビモンと申します」

 まるで貴婦人がそうするように、スカートの裾を摘み上げるような所作とともに深々と頭を下げる。

「我が主君・リリスモン様より、お二方を迎えにあがるよう仰せ付かって参りました」
「迎えに……?」

 インプモンと顔を見合わせ、思わず首を傾げる。凛と立つ淑女――レディーデビモンはこちらの言葉を待つようにただ黙して。インプモンはいぶかしげに淑女へ視線を移す。

「おい待て。あのババアどこまで知ってやがる? てゆーかどこまで関わってんだ?」

 眉をひそめてインプモンが問うも、しかし淑女は涼しい顔。小さく首を振る。

「さて……私は何も。詳しいことはリリスモン様にお伺いくださいませ」
「……なるほど。まあ、それもそうか」

 そう言うとインプモンはベヒーモスに飛び乗り、私を手招きする。って、

「え? 行くの?」
「元々そのつもりだったろ?」

 そりゃそうだけど。ただでさえ信用ならないと聞かされていたというのに。また随分と、都合のいいご登場に思えたけれど?
 なんて目で問うたところで、既にインプモンはその気のよう。私は溜息を一つ。

 はあ……悪夢だ。
 
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