□第三夜 黒鉄のナイト・メア
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3-3 朝駆の疾走(1/4)
「おはよ。よく眠れたか?」
寝ぼけ眼で起き上がった私にインプモンが朗らかに言う。まあ、意外とよく眠れたような気もするが、悔しかったのでうーと唸って睨んでやる。
「お、怒るなよー。今日は宿場探すからさ。な?」
「……追われてなければ、でしょ?」
もう一度睨んでやるとインプモンは遠くを見ながらふっと微笑む。蹴り飛ばしてやろうかな。
私は深く溜息を吐いて頭を振る。
「もういい。……ねえ、川とかない? 顔洗いたいんだけど」
「川? ええと」
問えばインプモンは鼻をすんすんと鳴らし、
「あっち、水の匂いがする」
そう言って水の匂いとやらがするらしい方角を指差す。犬か。
欠伸をしながら行ってみる。しばらく歩くと草原の隙間を縫うように流れる細い小川が見えてくる。ホントにあったし。私は屈んで水をすくい……ああ、そう言えばハンカチすらなかった。泣けてきた。
「どうかしたか?」
「……なんでもない」
セーターの裾で濡れた顔を拭い、一際低い声で答える。バイクに乗ってればそのうち乾くかなと、そんなことを考えながら湿った袖を振る。
と、ああ、そう言えば。
「ところで、結局これってなんなの?」
静かに佇むバイクがふと視界に入り、そう言えば昨日は聞く間もなかったことを思い出す。今更だけど。
近づいてそろりと覗き込めば、まるで振り向くようにひとりでにハンドルを切る。恐る恐る触ってみる。と、低く響いたエンジン音は生き物の鳴き声のよう。
「そいつはベヒーモス。俺の相棒だ」
「生きてるのこれ?」
「まあ、そんなようなもんだ」
どんなようなもんだそれ。結局さっぱり分からないが、まあ、ともかく頼もしい味方ということだけは確かか。少なくともインプモンよりは頼りになりそうだ。
そんな私の心の内を知る由もなく、インプモンは鼻高々といった風にバイクを――いや、ベヒーモスを撫でる。
「にしても珍しいな」
「なにが?」
「ベヒーモスは今まで俺以外をまともに乗せたことがなかったんだけどな。ヒナタ、何ともないよな?」
ちょっと待て何だそれ。まともに? 何とも? え? つまり……
「どうにかなるかもしれなかったのに乗せたの?」
「あ……いや」
言ってはっとなるインプモン。やぶへびと気付いたようだが……うん。
私は、無言でインプモンをひっぱたく。