□第三夜 黒鉄のナイト・メア
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3-2 落日の疾走(4/4)
どこをどう走ったろう。
遺跡のような場所を抜けたような気もする。森の中を駆け抜けたような気もする。岩山を駆け登ったり、なんだかしばらく宙に浮いていたこともあったような気もする。
気付けば日はどっぷりと暮れ、辺りは夜の闇。バイクのライトが僅かに前方を照らす以外、地形もろくに分からない。
「もういいぞ。ここらで休もう」
そう言ってインプモンが車体を叩けば、黒鉄のバイクはゆっくりと停車する。
深く深く吸い込んだ息を吐き出して、静かに顔を上げる。拍子に離してしまったインプモンが転げ落ちる。
「いてっ!」
「ああ……ごめん」
自分で言っておいてなんだが、心ここにあらずといった風な。
インプモンは頭をさすりながらも立ち上がり、指先に炎を点す。インプモンの不満げな顔や付近が僅かに見えるが、照明としては余りに心許なかった。
バイクから降りる。やはり暗くてよく分からないが、踏み締めた足元の感触からしてどうやら草原のような場所らしい。
正直このまま、倒れて眠ってしまいたかった。けれど、
「休むって、それ……野宿?」
乙女としてそれは断固拒否する。
と、言いたげな顔で訴えてみるもインプモンは不思議そうな顔。
首を傾げるな。爆発しちまえこの悪魔!
本当に訳も分からず、なのだろう。睨まれて困った顔でたじろぐインプモン。目を逸らして頬をぽりぽりかく。
「ええと……ヒ、ヒナタ?」
「もういい。寝る」
吐き捨てるように言ってごろりと横になる。ああ、開き直れば意外と気持ちいいかもしれない。うん。我ながらたくましいものだ。
そんな私の反応に、インプモンはかりかりと頭をかいて小さく溜息。聞こえたぞ。と、やおらかさりと何かを手に歩きだす。
ちらりと目をやれば小さな岩の上に先程の――どうやら魔法陣らしい、これをそっと置いてぼそりと何かを呟く。すると今までは砲弾のように射出されていた火炎が魔法陣の上に鎮座したまま静かに燃え上がり、辺りの闇がまた少し削られる。焚火代わりというわけか。
「それ……目立たない?」
「ああ、大丈夫だ。夜行性のデジモンもいるから、真っ暗のが危ないしな」
獣よけか。ただのどーぶつみたいなデジモンもいるのだろうか。
そんなことを考えながらゆっくりと目を閉じる。
そして私の意識は、夜のしじまへと沈んでゆく――