□第三夜 黒鉄のナイト・メア
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3-2 落日の疾走(1/4)
走る。走る。嗚呼――思えば今日は走ってばかり。きっと明日は筋肉痛だ。
「イ、インプモン! どこまで走んのこれ……!?」
「逃げ切るまでだ!」
言い切りやがった。だからそれがどこまでだこの野郎。
と、言ってやりたかったが息も既に絶え絶え。言葉の代わりにおかしな声が漏れる。
逃げ切るって? 行けども行けども代わり映えのしないこの荒野で? 空を飛んで追い掛けて来るあの軍勢から走って?
ははっ、ウケる。
ああ、そうだ、ひっぱたこう。万が一逃げ切ったらこの悪魔をひっぱたこう。何の解決にもならないけどひっぱたこう。
決意を胸に私は――超走る。
多分酷い顔してるから正面からは来ないでください天使さん。
「もう……嫌あぁ……!」
「あ、おい! ヒナタあぶねえ!」
フラフラの体を引きずるように走る。と、不意にインプモンが声を上げ私を突き飛ばす。察した私はされるがままに横合いに吹き飛ぶ。うん。慣れたもんだ私。……泣きたい。
そして一拍を置いて響く鋭い音。ちらりと一瞥だけをやれば一瞬前まで私のいた場所を閃光が穿つ。
やはり狙いは私。あるはずのないデジヴァイスを、いるはずのないテイマーを狙って。
テイマー……テイマー?
そう言えばテイマーってなんだ。まだ聞いてなかったっけ。
テイマー、というと調教師? 猛獣使い、ならぬデジモン使いということか。
インプモンを付け狙う天使たちが、なぜかインプモンと同等かそれ以上に危険視するもの。察するに恐らく……デジモンをより強く成長、いや、インプモンの言葉を借りるなら“進化”させるもの、というところか。
……そんなことができるならとっくにやっていると、彼らは微塵も考えないのだろうか。
溜息を吐きながらゆっくりと立ち上がり、私たちを空から取り囲む天使たちを見上げる。
「やれやれ……困ったなこれ」
「その割に冷静そうね……」
ぐるりと私たちを包囲する天使はおおよそ十数人。一人を除いて皆一様に同じ姿。先程の――エンジェモン、と言ったか。そして。
ばさりと、一人姿の違うデジモンが腕と一体となった翼で風を打つ。最前で真正面から私たちに対峙するこいつが、恐らくこの場でのリーダー。
見上げた遠方の空には、まだ豆粒ほどにしか見えないがわらわらと。これはまた大所帯で。
嗚呼――悪夢だ。