□第三夜 黒鉄のナイト・メア
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3-3 朝駆の疾走(4/4)
「お湯加減いかがメラ?」
「ん、丁度いいよ。ありがと。ええと、プチメラモンだっけ?」
磨き上げられた石の浴室。ふわふわと浮かぶ火の玉のようなデジモンに、湯舟の中から手を振る。
「あ、バブモンももういいよ。ありがと」
今度は浴槽の縁から泡を吐くスライムのようなデジモンに振り返り。お礼を言えば彼らは嬉しそうに声を上げる。
町のデジモンたちに頼んで借りたお風呂は、まるで生き返る心地だった。
はあ、と、溜息を漏らす。
そんな折にふと、浴室の入口辺りから聞き慣れた声と足音が聞こえてくる。私は迷わず手近な桶を手に取った。
「おいヒナタ。いつまベっ!?」
「入ってくんな。ぶっ飛ばすよ」
私の投げた桶に倒れるインプモンに、冷たく言い放つ。インプモンはずりずりと後退し、浴室の外から言葉を続けた。
「もうぶっ飛ばしてる……てゆーかなんで俺だけ」
「いいから外にいて。それよりもう準備できたの?」
「あ、ああ。ゴツモンたちが色々用意してくれた。いつでも出れるぞ」
できれば今日はこのまま泊まっていきたいところだけど。まだ日も高いし、帰るためには進まなければならない。それに――住人たちはベヒーモスやインプモンに、明らかに怯えている。私に対してはそうでもないようだが、さすがに長々と居座るのは気が引けた。
頭から湯をかぶって、また溜息を一つ。嗚呼……名残惜しいけど、しょうがない。そろそろ上がるとするか。
もう一度二人にお礼を言って、私は浴室を後にした。
「おせーよヒナタ」
「はいはい」
着替えを済ませて居間のような部屋に戻る。部屋にいたのはインプモンとゴツモン、そしてまるでハロウィンのようなカボチャのお化け――その名もそのままパンプモンというらしい。
インプモンは私を見るなり眉をひそめた。
「なんだその格好?」
「パンプモンが仕立ててくれたの。ありがと。丁度いいみたい」
どこか制服に似た新しい服の裾を振り、笑いかけるとパンプモンは照れたようにはにかむ。と、そんな私たちにインプモンはまたも眉をひそめて、
「なんだその愛想のよさ……」
なんて、いぶかしげに首を傾げる。私はそんなインプモンをスルーしてゴツモンたちの用意してくれた荷を受け取る。
「じゃ行くね? 皆ありがと」
そして私たちは、再びリリスモンの城を目指して旅立つのであった。