□第二夜 白妙のファナティック
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2-4 闘争の旅路(2/4)
遠く遠く、地平まで続く荒野は、幾重にも重なる層から成るデジタルワールドの、最も基盤となる表層のレイヤー。
砂塵の舞う荒れた大地を見下ろしながら、天使は杖を握る手に力を込める。
確かに先程、この辺りで何か……。合図は――否、まだ出せない。
この広大な荒野に一体どれほどのデジモンたちが棲んでいるというのか。何かいるという程度で合図を出していては切りがない。
確証が――
岩場を目指し、天使が降下を始めた、まさにその時だった。岩陰から飛び出すように姿を現したのは見慣れぬ人影。目を凝らせば走り去るその後ろ姿はデジモンのそれではない。
あれは……人間!?
見付けた! いや、だが単独? とにかく合図を――!
突然のことに、一瞬の思考の乱れ。視線は眼下の人間に。ぐぐと右手に力を込め、そうして生じた、僅かな隙。
なにっ……!?
意識の隙間を縫うように足元より飛来する火炎。咄嗟に体を捻り回避の体勢をとるも、火炎は左の翼を掠める。
バランスを崩し制御を失う。途端にその体は仰向けのまま重力に引きずり落とされる。
天使はなんとか体勢を立て直そうと再度体を捻り反転。眼下を見下ろせばそこは先の人間が隠れていた岩場。そして岩陰から立ち上る、黒煙。
ぐ、と。我が身に起こったことを理解し、天使は歯を軋ませる。
なんてことはない。人間はただの囮。自分が人間に気を取られた瞬間を狙って奴は、岩陰に残ったあの悪魔は、動きを止めてしまった自分を狙い撃ったのだ。
悪魔らしい、卑劣な罠というわけだ!
天使は落下するまま杖を左手に、握り込んだ右の拳に力を込めて眼下の悪魔を睨みつける。天使の拳が光を放ち、眼下の悪魔が右手を掲げる。
第二射を放とうというのか。面白い! 真っ向勝負で成長期に遅れを取るとでも……!
――だが、そんな天使の思惑とは裏腹に、悪魔が指をぱちんと鳴らせば、放たれる第二射はまるで予想だにしない場所から。
気付いた時には、もう遅い。
横合いから飛来した火炎が回避の間もなく天使に直撃する。体をくの字に折って真横に吹き飛ぶ天使。爆炎と黒煙にまみれたままにやがて岩場へと落下する。
「馬鹿正直過ぎんだよ、お前らは」
そう言ってふうと息を吐く悪魔――インプモン。やったぜとサムズアップに、しかし少女は実に不満げであった――。