□第二夜 白妙のファナティック
8ページ/12ページ
2-4 闘争の旅路(1/4)
「あれは……」
「エンジェモン――天使型のワクチン種、成熟期だな」
岩陰に隠れながらそっと覗き込む。彼方の空、私の目ではまだ豆粒ほどにしか見えない。
「成熟期?」
「俺たちデジモンは進化を繰り返して強くなっていくんだ。成熟期ってのはそのレベル。数字で言えばレベルWだ」
「W……インプモンは?」
「Vだ」
しれと言う。負けてるじゃないそれ。大丈夫なのかと顔で問えばインプモンは得意げに笑う。
「因みにスラッシュエンジェモンは究極体、レベルYだ」
「え? 倍も違うのあれ?」
「まぐれ当たりのラッキーパンチだけどな。上手くやれば手がないわけじゃねえ。レベルの差が戦力の決定的な差じゃねーんだよ」
ふふんと胸を張る。
まあ確かに、人間だって不意を突けば子供でも大人を昏倒させられる。その理屈はわかるけど。
「で? あんな遠くにいるのにどう上手くやるの?」
覗き込めば標的は遥か上空。それに、
「そもそもこれ、見付かってないの? こっちに来るみたいだけど」
インプモンに言われすぐにこの岩陰に隠れたが、こちらから視認できたなら逆も有り得るということ。砂埃の舞う荒野は確かに上空からでははっきりとは見えないかもしれないが……。
インプモンはふむと唸る。
「もしかすると何かいる、ってくらいは気付いたかもな。でもはっきり確認したならすぐに仲間を呼ぶはずだ」
ああ、それは確かにその通りだ。レベルで二つ違う格上の仲間が手傷を負わされたのだ。いきなり仕掛けるような間抜けはさすがにしないだろう。
「相手は一人、よね?」
「みたいだな」
エンジェモンとやらは徐々に接近し、私の目にも次第に姿がはっきりと見えはじめる。
白い衣に鉄仮面、金の杖を構え背には純白の翼。なるほどまさに天使というわけだ。
「それで、どうするの?」
「先手必勝。射程に入ったら撃ち落とす。仲間を呼ばれる前にな」
「……完全に悪役の台詞じゃない、それ?」
「負けた奴が悪いんだぜ、ここじゃあな」
開き直りやがったかこの野郎。遂に本性出したな。
なんて私の胸中を知る由もないインプモンはあっけらかんと。「そこでだ」と人差し指をぴっと立て、意味深な視線を寄越してくる。
嗚呼、嫌な予感しかしない。
「ヒナタに一つ、頼みたいことがあるんだ」
「……え?」