□第二夜 白妙のファナティック
5ページ/12ページ
2-3 逃走の旅路(2/4)
草原を走る。走って、走り抜く。ひたすらに。
「気付かれた……こっちに来るぞ!」
走りながらちらりとだけ振り返れば、豆粒のような影の幾つかが確かに真っ直ぐこちらを目指して飛来する。
「ど、どうするの……インプモン!」
「この小世界を脱出する! ヒナタ! どこかに光の柱は見えないか!?」
「光の……なに? 柱? って?」
私の右手を並走するインプモンへ視線をやり、そしてその視線が不意に、その先へ向く。
インプモンは小さい体で必死に走りながら私へ振り返り、半ば叫ぶように続ける。
「光の柱だ! 常に移動してるはずだからどっかに――」
「それって……」
視線はインプモンの頭上を通り過ぎたまま。進行方向右手を指差せばインプモンもまた振り返り、
「それのこと?」
「そうそう、これこ……れぇ〜!?」
「……え?」
数秒前まで彼方に見えていたそれは、気付けば目前まで迫り、瞬く間に私たちを呑み込む。
途端、視界がホワイトアウトする。同時に襲う浮遊感に、地を駆けていた足が空を切る。
「な、なにこれぇー!?」
「だ、大丈夫だ、助かった。それより離れるなよ。逸れるとまずい。……てゆーかもっと早く言ってくれよ」
言いつつ無重力のような光の中を、泳ぐように近づいて私の腕を掴むインプモン。姿勢はぐっちゃぐちゃ。もうどっちが上でどっちが下だったかもわからない。
「早くって……あー、もう訳わかんない! どうなるのこれ!?」
「どこかに移動するだけだ。心配するな」
「ど、どこかって?」
「さあ? 正規の方法じゃないから……どこだろうな」
私の問いに、インプモンは肩をすくめて首を傾げる。
それは本当に心配ない状況なのか。なんて表情を隠しもしない私に、
「どこ行くかわかんねえなら、あいつらだってそうそう追いかけて来れねえって。心配すんなよ」
「それはいいけど……そんなことより私は帰れるんでしょうね?」
問えば乾いた笑いと泳ぐ目。
「ちょっと、インプモン?」
「まあそれは追い追い考えるとして」
「今考えてよ!」
ほとんど頭突きをするほどに詰め寄って。しかしインプモンは笑いながら視線を逸らす。
「まあ、なんとかなるって」
そう言って私の肩を叩く。
こいつ本当は全部狙ってやってるんじゃ……そんな思考が頭を過ぎる。嗚呼――
「悪夢だ……!」