□第二夜 白妙のファナティック
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2-3 逃走の旅路(1/4)
「大丈夫かヒナタ?」
「大丈夫じゃないし」
ふて腐れながら吐き捨ててやればインプモンは困ったように頬をかく。困っているのはこっちだというに。
空を見上げる。
嗚呼、泣けてきた。
辺りは見渡す限りの草原。人波も町並みも見えない。仰いだ空は不自然なほど青く、染色したよう。
「ここが俺たちデジモンの世界、デジタルワールドだ」
どうだと言わんばかりに腕を広げ、聞いてもいないことを話し出すインプモン。声の調子は妙に明るい。私は、冷たく一瞥する。
「なんて言うか」
私の視線に耐え切れずか、目を逸らしてふうと息を吐く。インプモンは声の調子を落とし、
「ホントごめん」
そう言ってうなだれる。
私はゆっくりとインプモンに手を伸ばす。その手がボロボロのスカーフに届くまで、インプモンはうろたえながらもただじっと。私は顔を上げて真っ直ぐにインプモンを見据える。
「ごめんで……済むの?」
そんな台詞は自分の口から出たとは思えないほど低く冷たい。
インプモンはこくりと息を呑み、少しを置いて恐る恐る口を開く。
「すみません……」
私はふふと笑んでその手をインプモンの細い首に回す。そして――
「ヒっ、ヒなぁぅ〜……っ!」
そして力の限り締め上げ振り回す。
「イ・ン・プ・モぉ〜ン!」
「ぎっ、ギブギブ! ヒナっ……たはぁ!」
「だからなんで巻き込んだぁー!?」
「だから俺じゃな……っ! 死ぬぅ! 死んじゃうから!」
そう言って私の腕をタップするインプモン。と、ふとその手が私の腕をがしりと掴み、
「あっ! 待ったヒナタ! 後ろ見ろ! 後ろ!」
「後ろぉ〜!?」
言いながらも聞く耳は持たずインプモンを振り回す。
「あ、あいつらだ! やばいぞあれ!?」
「あいつ……え?」
はっとなり、半ばインプモンを放り出す形で離して振り返る。草原の彼方に僅か見えるのは、雲にも届く細い細い塔のような。その頂より四方へ飛び立つ小さな影は――。
「なに?」
「エンジェモンだ。俺たちを探してる」
エンジェモン?
名前からして……さっきの天使の仲間? ってそれ。
「ど、どうするの!?」
「そんなもん……」
隠れる場所もないこんな草原で。しかも相手は10や20では済まない大所帯ときた。
「逃げるしかないだろ!」
「もうやだぁー!」