□第二夜 白妙のファナティック
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2-2 天使の帰還(1/1)

 
 海原を一望する小高い丘の上、天を衝くかの如く高くそびえるそれは白亜の塔。雲を見下ろすその頂は、円周を列柱に囲まれた石造りの祭壇であった。
 列柱の内側には祭壇をぐるりと囲む白衣の天使たち。その手に金の鉄杖を構え、今にも戦場へ繰り出さんとばかりに気を張る。そして――

 中央の祭壇を前に、手に持つ巨大な鍵を掲げるのは重厚な白い鎧を身にまとう巨躯の天使。

「これは……一体」

 ぴしりと、天使の掲げる鍵の先、祭壇の上で宙に亀裂が走る。鍵の天使は指先に感じる違和に顔をしかめ、周囲の天使たちへ振り返る。

「備えよ! 間もなくゲートが開く……しかし、どうやら異変が起きているようだ!」

 鍵の天使の言葉に、周囲の天使たちは杖を握るその手に一層力を込め、戦いの構えを取る。
 宙の亀裂は次第に大きく、ぎぎぎと扉の開くような音とともに空を穿つ穴となる。

 天使たちが見守る中、宙にぽっかりと空いた空洞からやがて、煤と傷にまみれた銀の剣がずるりと這い出す。
 鍵の天使ははっと息を呑み、祭壇に倒れた剣の天使の元へ、一拍を置いて駆け寄る。

「スラッシュエンジェモン!」

 鍵の天使は剣の天使を抱え上げ、はっと、頭上の穴を仰ぐも、しかし既にその中には何の気配もない。
 鍵の天使が再び視線を下ろすと、その腕の中で剣の天使は嗚咽混じりのか細い声で、

「すみま……せん……」
「どうした! 何があったのだ!?」
「取り逃がしました……ゲートに、妙な魔術を撃ち込……ぐっ」

 剣の天使はそこで言葉を詰まらせ、痛みに呻きを漏らす。
 鍵の天使は周囲に控えていた白衣の天使たちを呼び、剣の天使の介抱をさせながら、

「ゲートを……まさか、ゼニスゲートを改竄したというのか。そんな……」
「す、すぐに追っ手を……こちらへは戻ったはずです。恐らくこの……近く、に……」

 ぐうと、一際大きく呻き、意識を失ったのだろう、剣の天使は四肢をだらりと力無く投げ出す。
 鍵の天使は剣の天使の胸に一度手を置き、電脳核の鼓動を確かめると、僅か、安堵の溜息を漏らし、おもむろに立ち上がる。

「行くのだ同胞たちよ! 我らが友の戦いを無駄にするな! 必ずや奴を……蝿の王を討つのだ!」

 その叫びを合図に、白亜の塔から次々と天使たちが飛び立ってゆく。鬨の声を、青天に響かせて――。
 
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