□第一夜 黄昏のアンリアル
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1-4 聖戦の狼煙(1/4)
その身は銀の鎧をまとい、両腕は斬るより断つを目的としたような肉厚の刃。背に翼を負う姿は、なるほど天使と呼ぶに相応しいだろう。しかしその翼は羽根の一枚一枚が鋭い刀剣。
弱きに手を差し延べる救済者などではない。強きを切り捨てる断罪者であると、その立ち姿が語る。
「スラッシュエンジェモン……!」
インプモンがその名を呼ぶと剣の天使――スラッシュエンジェモンは小さく口角を上げる。
「これはこれは。私の如き一兵卒をご記憶下さっておいでとは……恐悦至極」
「馬鹿にしてんなお前」
「おやおや、滅相もない」
顔をしかめるインプモンに、剣の天使は小馬鹿にしたような態度でわざとらしく肩をすくめてみせる。
こいつがインプモンを狙って来た天使。そしてなぜか私を巻き込んだあんちくしょう。
襲い来るでもなく暢気に喋っているせいか恐怖は次第に薄れ、なんだか見ていたら段々腹が立ってきた。
「ねえ、あなた。ス、スラッシュエンジェモン、だっけ?」
自分で驚くほどに声を張り、真っ直ぐに天使を睨みつける。天使は再度口角を上げ、
「なんでしょう、テイマーのお嬢さん?」
ああ、それだそれ。本当にインプモンの言っていた通りだこんちくしょう。
私が口を開きかけると、しかし先に声を発したのはインプモンであった。
「ちげーよ。なんでそうなんだ。ヒナタはなんも関係ねえ」
「あ……そ、そうよ! 私は関係ないんだからやるなら二人で勝手にやってよ!」
「……それも寂しいな」
「インプモンうるさい!」
この期に及んで名残惜しむな、大人しく独りで死んでこいと、インプモンを睨みつける。
と、そんなやり取りに天使はさも面白そうに声を漏らし、
「インプモン、ですか……これはまた」
言いつつかしゃりと背の刀剣を鳴らして続ける。
「ご本人がそう名乗られたので?」
「は? そう……って、インプモンでしょ?」
首を傾げて目をやれば、インプモンもまた首を傾げ、自分を見ろとばかり腕を広げる。
「見ての通りのインプモン様だぞ。何が言いたい?」
「ふ……ご冗談を。お嬢さん? あなたの匿っているそのチンチクリンは――」
「匿ってないし」
「誰がチンチクリンだ」
私たちの横槍もさらりとスルーして、天使は続ける。
「ただの小悪魔などではありません。そうでしょう……魔王殿?」