□第一夜 黄昏のアンリアル
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1-3 悪魔の憂鬱(2/2)

 
「どう、インプモン?」
「いねーな。見たとこは」

 曲がり角からインプモンの顔だけを突き出し恐る恐る問う。インプモンはなにやら不満そうな顔で振り向いて答えた。

「私のケータイは?」
「ケータイ……って俺どんなんか知らねんだけど」

 最初にインプモンが現れた場所、そしてケータイを落としたであろう学校帰りの路地を覗きながら、いや覗かせながら。

 インプモンはううんと唸りながら身を乗り出し、辺りを見回す。近くにいないならもうちょっと突き出してやっても構わないだろうか。

「お、あれか? 白い端末が落ちてるけど」

 私がちょっとした誘惑に駆られだした頃、見計らったようなタイミングでインプモンが声を上げる。

 どれどれとインプモンを盾にしながら覗けば確かに、アスファルトに転がっている私のケータイらしきものが目に留まる。

 壊れてたら覚えてろよこの野郎と心の中で毒づいて、そろりそろりと路地へ出る。

「いない、よね。しっかり見ててよインプモン?」
「ちゃんと見てるよ。……だからそろそろ離してくれないものだろうか」
「ああ、うん。前向きに検討してみる」
「ヒナタは寛大だな。涙が出てくるよ」

 そんなインプモンの嫌味をさらりと流してケータイを拾う。特に傷や汚れは見当たらない。命拾いしたなインプモン。

「じゃ、インプモン」
「なんだ?」
「帰れ」

 ケータイを突き出しにこやかに言う。なぜかインプモンは捨てられた子犬のような顔で眉をひそめた。

「ええと、ゲートは閉じてるみたい……だけど」
「じゃ、開いて?」
「いや、だからさ、そんな簡単に……あいつなら知ってるかもしれないけど」

 あいつ、か。そう言えば全然姿を見せないな。一体どこに……。キョロキョロと辺りを見渡し、もう一度ケータイへ視線を落とす。と――

 そんな時だった。

 探せど聞きたくはなかった声が、聞こえてきたのは。

「私をお探しでしょうか、お嬢さん?」

 夜気の混じりはじめた茜の空に、よく通る澄んだ声は頭上から降り来る。初めて聞いたはずのその声に全身が産毛まで逆立って、背筋には氷が這うよう。

 私はゆっくりと空を仰いだ。

 誰、とは問うまでもなかった。
 
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