□第一夜 黄昏のアンリアル
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1-3 悪魔の憂鬱(1/2)
「ドナドナドーナー……」
「インプモンうるさい」
いじけるインプモンを小脇に抱え、数分前に駆けた路地を逆走する。
走ってるうちに段々頭が冷えてなんだか自分がえらいことをしようとしているような気がしてきたけど、今更止められない。
「なあなあ、ヒナタ」
「なに? 考え直す気はないけど?」
「それは……ああ、残念だけどもう運命は受け入れるよ。それよりさっきグッドラックって言ったよな」
「言ったけど、なに?」
「幸運を祈ってくれるなら、一個だけ頼みがあんだけど」
受け入れるけど頼み?
訝しげに眉をひそめる私に、インプモンは続ける。
「紙持ってね? あとなんか書くもんねーかな」
「なに? 遺書でも書くの?」
「ヒナタはホント俺に厳しいな……」
「ま、そのくらいならいいけど」
と言ってもそう言えば手ぶらだ私。空いている手でポケットを探る。こつりと、胸ポケットにさしていたボールペンに指が当たった。あとは紙だけど、
「こんなのしかないけど?」
胸ポケットから取り出した生徒手帳を差し出す。インプモンはそれを受け取るとうんと頷く。
「これでいいよ。ありがとな。何枚か破いていいか?」
「いいけど……なにするの?」
「武器を造る」
問うより早く何かを書き出しながら答えるインプモン。覗き込めばなにやら見たことのない文字と図形を組み合わせた――まるで魔法陣だ。
一枚書いては破き、二、三、四、五枚と。書き終えた紙切れを握りしめて、インプモンは生徒手帳を私に差し出す。
「ありがとな。助かったよ」
「……どういたしまして」
受け取った生徒手帳をポケットにしまいながら、思わずふいと視線を逸らす。
ない、ない。あるわけがない。素直に感謝されようと罪悪感なんて、感じるわけがない。あるもんか。
そんな手には乗るものかと一人首を振る。
そんな私にインプモンは訝しげな顔をするが、関係ない。私は構わず足を進めた。最初にインプモンと出会った場所は、もうすぐそこだ。
「行くよインプモン。覚悟決めた?」
「今更聞くのか……」
「うるさい。じゃ、あとは勝手に頑張って!」