□第一夜 黄昏のアンリアル
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1-2 夕闇の遁走(2/4)

 
「おう、まあ、見てのとーりな」

 そう言って笑いながら両手を広げてみせるインプモンの体は、よくよく見ればあちこちがボロボロ。

 黒いラバーのような肢体は所々が擦り切れ、白い頬には浅くない切り傷。首に巻いた赤いボロ布は恐らくスカーフだったのではなかろうか。

 なるほど彼の言う通り、彼が命を狙われているのはまさに見てのとーりなわけだ。が、しかし問題はそこではない。

「そう……で、どうして私まで?」

 訳の分からないイキモノが訳の分からないイキモノに命を狙われようが知ったことか。全く一切ちっとも全然これっぽっちも関係のない私が、なんでどうしてどんな理由でなにゆえ巻き込まれなければならないというのか。

 ジロリと一瞥して問えばインプモンはしばし沈黙。ややを置いて口を開き、

「う〜ん……なんでだろうな?」

 そして首を傾げる。

「はあ!? なにそれ!?」
「まあまあ落ち着けヒナタ。誤解してるぞ。巻き込んだのは俺じゃない」
「あ……あなたじゃないって、それじゃ」
「ヒナタに何も心当たりがないなら、多分さっきの奴が勝手に勘違いしたんだろうな。ヒナタが俺のテイマーなんじゃないか、とかな」

 もう一度首を傾げ、こめかみに指をやって唸るインプモン。どうやら彼もまた状況を完全には把握できていないよう。

 しかしそれならそれで、

「テイマー、とかなんとかよくわかんないけど……とりあえず私が無関係ってことだけでも伝えてもらえない?」
「無茶言うなー。命狙われてんだけど俺」
「知らないそんなこと。私関係ないもの」
「それ言ったら俺もあんな奴知らねんだけど」

 そう言ってインプモンはそろりと表通りを覗き込む。追っ手の気配は、今のところ不気味にもまるでない。
 インプモンは再度私へ向き直る。

「ちゅーかさ、さっきから気になってんだけど、ヒナタなんで俺の事情とかは聞かねーわけ?」
「興味ないし」
「うわひっで。冷た! 世間の風冷た! 人間ってみんなこんなもん?」
「うるさいな……」
 
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