□第一夜 黄昏のアンリアル
10ページ/13ページ
1-4 聖戦の狼煙(2/4)
「ま、魔王?」
と言ったか。このチンチクリンを?
「ええ、その通り。我らが世界の闇を七分せし七大魔王が一柱・蝿の王――暴食のベルゼブモン」
唄うように言葉を紡いで、天使の口調はどこか陶酔した風に。天使は視線を真っ直ぐと、インプモンを見据え言葉を繋ぐ。
「……に、相違ございませんね?」
わざとらしく首を傾げて天使は問う。インプモンはやれやれと溜息を吐いて肩をすくめてみせた。
「今更聞くかそれ? 違いますって言ったらどうすんだ。……まあ、違わねえけど」
「……じゃあ、本当に」
私が目をやるとインプモンは笑って頬をかく。
インプモンが魔王。じゃあ、じゃあやっぱり、
「やっぱりあなた悪者じゃない!?」
「いやいやいや、ヒナタさん?」
「ええ、その通り。ご理解いただけましたかお嬢さん」
「ちょ! お前ちょっと黙ってろこの野郎!」
ぎゃーぎゃー喚くインプモンにしかし天使は澄ましたもの。かしゃりと刃を鳴らし、寝かせた切っ先を私へ向け、
「お嬢さん、先程の無礼はお詫びいたします。突然のことに冷静さを欠いていたようです。どうかデジヴァイスをお渡しください。レディに手荒な真似はしたくありません」
無礼って。命狙っといてごめんで済ませる気かこいつ。ああ、いやそれより、
「デジヴァイス……」
言葉を反芻し、しばし。おもむろにインプモンに向き直る。
「って、なに?」
耳打ちするような私の問いにインプモンもまた声を潜め、
「テイマーの証、らしいけど。……持ってる?」
「や、テイマーじゃないし」
「だよな……」
ひそひそ話に首を傾げる天使に視線を戻し、恐る恐る言ってみる。言う前からなんとなくリアクションは予想できたが。
「あのー、渡したいのは山々なんだけど……持ってない、です」
「なるほど……」
天使はふうと息を吐き、残念だと言わんばかりに小さく首を振る。
やな予感しかしないんだけど。
「それでもなお、魔王に肩入れすると……それが貴女の答えなのですね、お嬢さん?」
ほらね。思った通りだし。
「インプモン……」
「天使ってのは頭かてえんだよ。いや、ホントごめんな」
「今更謝んないで……泣きそう」
かしゃり、かしゃりと全身の刃を鳴らす天使。
「致し方ありません。ならば――!」
「いーやー!」
「やれやれ……」