□5周年リクエスト小説A
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 一方その頃、目的地がそんなことになっているなど露知らず、優雅な空の旅を続けるハナはぽつりと元も子もない本音を零していた。

「はあ……てゆーか帰ってお母さんのご飯が食べたい」

 そればかりはさすがにこちらの熊と魔術師にも叶えられない。叶えられないが、それはあくまでこちらの熊の話であった。

「すぉんなあぁぁ! くぉとむぉぉぁ! あ・ろ・う・か・とおおぉぉぉぉ!!」

 既に盗賊団を殲滅したあちらの熊は、条理を越えた金色の魔王は何もない虚空に向かって咆哮する。固く鎖された扉を開こうとするような仕草はしかし、ただのパントマイムなどではない。

「今! 次元の壁を! こじ開けてるぜええぇぇぇっい!!」

 そう、もはや今の奴に不可能などない。すべては彼女のため、その望みを叶えるためだけに存在するその身に、彼女が願う以上はできぬことなどただの一つたりとてありはしないのだ。これまでの旅のどこにそんな忠誠心を抱く要素があったかは疑問であるが、そのような有り体の常識でこのぶっ飛んだ非常識を語るほうが馬鹿げているというもの。

「ディジトゥゲェェイ……ぅアァァープぁン!!」

 ごりゅんぬと、腕力一つで次元の裂け目を開き、「一仕事したぜ」とばかりに熊はいい笑顔で汗を拭う。

 こうして熊の活躍により人知れず、主人公さえ知らないところで誰も知らない野望は打ち砕かれ、世界の平和は守られたのである。
 そして勇者ハナの冒険もまた、ここに幕を閉じるのであった――


 花と緑の……完!


※本作はIF設定の番外編です。本編の結末とは多少異なる可能性がございます。

 
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