□5周年リクエスト小説A
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 その頃、盗賊団の本拠地では見張り台から奇妙な物体の接近が目撃されていた。羽の生えた玉座、それを覆うオーロラのようなベール。空飛ぶマリー・アントワネット的な謎の物体をスコープで捉え、ピンクのお猿はそのアバンギャルドに戦慄する。
 襲撃者? 売り込みにきた大道芸人? それともシンプルに変質者? 否、何であろうと関係はない。奴らは完全に黒い歯車を追ってきている。ならば迎え撃つまでのことYO!

 お猿が両の手を突き出し、雷の砲弾を放たんと構え――その間際だった。

「だだんだんだだん」

 などと背後で口ずさんだのは聞き覚えのない声。はたと振り返れば目前には宙に浮かぶ亀裂。時空の裂け目的なその中よりのそりと現れたのは黄色い熊だった。
 自分たちのボスに似たその容姿。しかしてボスなどでは決してない。黄色い熊はお猿をびしりと指差して、高らかに言い放つのであった。

「こんなこともあろうかと思って時を越えて助けに来たぜ!」

 お前は何を言っているんだ、とはお猿でなくとも思ったことであろう。
 どうやって? そんなもんオイラが知るか! とばかり、お猿が状況を理解する間もなく、理不尽と不条理の権化がその鉄拳を振るう。
 訳もわからぬままに強烈な一撃を見舞われ、お猿は為す術もなく見張り台から吹っ飛ばされる。

 そして同時刻、アジトの至る所でそれは起きていた。

「こ「こ「こ「こ「こ「こ「こ「こ「こ「こんなこともあろうかと思って!」!」!」!」!」!」!」!」!」!」

 異なる世界線の平行宇宙より現れ出るは十なる黄色き熊。
 何がどうなっているのかはもはや誰にもわからなかったが、事ここに至ってそれは瑣末な問題であった。
 次元を越えた襲撃にアジト内部は混乱を極めていた。響く奇声。轟く爆音。世の理を嘲笑うかの如く、傍若無人に奴はすべてを蹂躙する。

「おのれぇ……!」

 だがしかし、そこに立ち塞がる影が一つ。襲撃者によく似たシルエットのそれは颯爽と現れ、雄々しく名乗りを上げる。

「我が名はワルもんざえモン! 誇り高きグリードゴート眷騎士団の――」
『デジクロス!』

 が、勿論黄色い悪魔どもとまともな会話など成立するはずもない。
 熊と熊と熊と熊と熊と熊と熊と熊と熊と熊とは手を繋いで輪となって、まばゆい輝きに包まれる。光の円環は回転し、徐々に浮き上がり、端から見て何がなんだかさっぱりな状態で更にその光量を高め、やがて弾ける閃光とともにそれは姿を現す。

『メガ! ゴールド! もんっざえモンっ! スペリオルモおおぉぉぉぉぉーっド!!』

 光の中より現れ出るは巨大なる金色の熊。触れるすべてを焼き尽くさんばかりの太陽が如き灼熱を纏い、地獄のマグマにも似た深紅の双眸を揺らす。

『あーひゃーひゃーひゃーひゃー!』

 ずしんずしんと、我が物顔でその巨体がアジトを闊歩する。地を踏む振動と風圧さえ雑兵には為す術もない。一度腕を振るえば壁が砕け、柱が折れ、数十数百の兵が散る。あぎとを開けば地獄の業火が噴き零れ、万象の一切を灰燼に帰さんと猛り狂う。なぜ火を吹くのかは勿論誰にもわからない。
 それはさながら、天の高みより堕ちたりて地の底に君臨する堕天の使徒が如く。その身の内にたぎる焦熱が閃光となって照射される。

「こんな……馬鹿なああぁぁぁぁ……――!?」

 紅蓮の中に消えゆくワルもんざえモンの断末魔さえも、もはや金色の魔王の前では虫けらの吐息でしかなかった。

 
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