□不定期(2022-)
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【強襲】


 それは、アポカリプス・チャイルドがゼブルナイツの拠点に強襲を仕掛け、両軍の全面戦争が勃発した直後のこと。

「硬っ! 何こいつ意味わかんない!」

 進軍を阻むゼブルナイツ海軍を抑えるべく、水中戦に長けたラーナモンは単身、海軍の将たるメタルシードラモンへと戦いを挑んだ。けれど、鉄をも穿つ水の矢を受けてなお猛進するメタルシードラモンに、その想定外の実力に、ラーナモンは思わず叫ぶ。僅かな焦りを滲ませて。

「少し落ち着き給え、ラーナモン」
「うるさい、もう! わかってる!」

 どこからともなく聞こえるメルキューレモンの言葉にとても物分りよく声を荒げ、深く息を吐く。そうして、冷静さを取り戻すため、この戦いに掛かったものの重みを確かめるように、ここまでの道程に思いを巡らせる。



『魔王討伐のために力を貸してほしい』

 不思議な声に導かれ、デジタルワールドへとやってきたマリーたち。元の世界へ戻る手掛かりを求めて旅を続ける中、彼らは現れた。
 デジタルワールドに君臨する七柱の魔王を討ち、世界の浄化を最終目標とする神の使徒“アポカリプス・チャイルド”。
 なぜ自分たちがこの世界に呼ばれたかも分からぬまま、ただ彷徨うばかりだったマリーたちにとって、それははじめて明確に示された旅の終着点。これこそが“選ばれし子供”としての使命だったのだと、そう直感した。

 アポカリプス・チャイルドと行動を共にし、数週間。火急の報せは突然に舞い込んだ。七大魔王の一人、“暴食”のベルゼブモンを発見し、交戦中であると。
 離れた小世界で調査中だったため、マリーたちが駆け付けた時には既に戦いは終息していた。勝利でも、敗北でもない形で。
 アポカリプス・チャイルドの王・ホーリードラモンの手によって一度はベルゼブモンの封印に成功するものの、突如として現れた謎の勢力により、戦いで疲弊した隙を突かれ、封印の氷柱ごと魔王を奪取されてしまったという。
 敵の名は“ゼブルナイツ”。過去に召喚された選ばれし子供により討たれた“強欲”の魔王の配下たち、その残党が再結集し、良からぬことを企んでいるらしい、とは耳にしていた。だが、まさかこのタイミングで仕掛けてくるとは思いもしなかったのだ。盗賊団程度の規模と侮っていたが、奴らは水面下で“憤怒”の魔王配下の残党とも手を組み、アポカリプス・チャイルドに対抗しうるほどの兵力を揃えていた。

 奪われた魔王を追い、各地で数度の交戦と調査を重ね、少なくない犠牲も出し、そしてようやく、その本拠地を見つけ出すに至った。
 恐らくこれが最終決戦となるだろう。今ここで魔王を討ち、世界に平和を取り戻す。

 そのために、あたしたちはこの世界にやって来たのだから……!



 タクトのように振るった片手に応え、水面が震える。水のヴェールがラーナモンを包み込む。

「スライドエボリューション」

 水膜の向こう側の敵を見据えながら、デジヴァイスに眠るビーストスピリットに呼び掛けるように小さく呟く。囮の水の膜をその場に残し、光の帯に包まれながらゆっくりと潜航する。

「まずは取り巻きから片付けろ。それがメタルシードラモンを抑えることにも繋がる」

 メルキューレモンからの指示に「了解」とだけ応える。水のビーストスピリットの闘士・カルマーラモンへと姿を変え、巨大イカに似た下半身に人の上半身を埋め、ドリルのように回転しながら高速航行を開始する。
 元・魔王バルバモンの腹心、メタルシードラモン。そして彼の率いるゼブルナイツ海軍は、一言で言うなら、強敵だった。
 出し惜しみは必要ない。これまでの旅で培ったすべてをぶつける。でなければ、この過去最強の敵とは渡り合えないだろう。
 回転する巨体で体当たりをし、触手で叩き、絡め、ゼブルナイツ海軍の兵隊を次々に落としていく。メタルシードラモンには目もくれず。けれど向こうはこちらを無視できない。できるはずもない。
 縦横無尽に動き回り、海軍戦力を翻弄し、海中に押し留め、海上の戦闘には手出しをさせない。メルキューレモンの作戦通りだ。そう、作戦通り……。

 湖の藻屑と消える海竜たちを一瞥し、カルマーラモンは唇を噛む。水に溶ける断末魔が泥のように鼓膜に纏わりつく。
 命を奪う。何度経験したって慣れやしない。慣れていいはずがない。
 それでも、やるしかないのだ。

 ベルゼブモン――血に飢えたケダモノと称される狂気の魔王。
 そんなものを再び世に解き放つだなんて、絶対に許せない。

「あたしたちが、守ってみせる……!」

 決意を胸に、義憤の炎を燃やす。
 そう……

 未だ真実を、知らぬが故に――


-終-
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