□2017年 秋期
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【人生、宇宙、すべての答え】


 その紙片には生命と宇宙と、そして万物についての究極の疑問の答えが記されていた。

 居並ぶ無数の数列は暗号にも似て、まだ見ぬ未知なる文明の言語にさえ思えた。その正否を表す赤い記号を見詰めながら私は、広大なる宇宙へと思いを馳せる。
 この私は地球の中にあってただ一つの小さな砂粒に過ぎず、その地球もまた天の川銀河の中では河辺の砂利にも等しく、あまつさえ銀河すらもが宇宙に漂う一滴の雫でしかないのだ。
 嗚呼、この母なる宇宙の中、私はなんとちっぽけな塵芥なのだろう。宇宙に目を向けるなら日々の小さなことなどすべてくだらない瑣事にも思えてくる。

 そう、すべては瑣末事。
 富も名声も権力も、それを得るための努力も策略も競争も、大局を見据えるならばさしたる意味などないのかもしれない。
 嗚呼、果たしてその数字にどれほどの価値があるというのだろうか。
 数字は答えとへ至るがための手段でしかなく、結論などではない。だというに、その過多で人の価値を計り、その増減に一喜一憂するなど、なんと愚かしいことだろうか。

 若人よ、道を違うなかれ。
 己が価値は自らの心にこそ問うてみよ。答えは、そこにしかないのだから――!

 窓から空を見上げて熱く語る私に、傍らの彼女は小さくふむと唸る。そうしておもむろに、あろうことか私の手から真理の紙片を奪い取る。

「あ」

 彼女は紙片を二本指でつまみながら一瞥し、

「いやお前これ完全に途中で寝てんだろ」

 と言って私をじとりと見る。ので、私はそっと視線を逸らす。
 それが何であるというなら、テストの答案である。
 解答用紙の途中から文字はミミズがはい回るようにぐにぐにと歪み、以降の空白には謎のシミが浮かぶ。謎のというかまあ、ヨダレの跡であるのだが。

「だってハードディスクぱんぱんだったんだもん……」
「アニメかよ。救えねーなクソオタク」
「で、でも書いてるところは全部合ってるよ。すごいね、ハナちゃん」
「ユカぁ、甘やかしちゃ駄目だから。半分もいってねえし」
「ぐぬぬぅ、んじゃあミナミんは何点なんだよー」
「あたし? 97点だけど」
「アイデンティティー! 真面目か! このギャル崩れ!」

 ふっと笑う友人に少女は雄叫びを上げる。それは宇宙の真理とかとはたぶん無関係な、とある女子中学生の日常であった。


-終-



SS第74弾は【人生、宇宙、すべての答え】。
具体的な点数が知りたい人はこのお題で調べてみよう!
 


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