□2017年 秋期
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【無人駅】


 その駅は荒野の中にただぽつんと、立ち尽くすように佇んでいた。

 機関車型のデジモン・トレイルモンはデジタルワールド中に敷かれた線路の上を日夜走り回っている。極一部の地域では決められたルートを決められたスケジュールで運行するトレイルモンもいるそうだが、そうでない多くのトレイルモンはただ生態として目の前の線路を走っているだけである。

 ふと辺りを見渡して、私は目を細める。
 砂塵に霞む荒れ地に置かれた無数の鉄の板、岩肌の間に覗くそれが鉄道の線路であると気付けるものは少ないだろう。あるいはトレイルモンさえ、ここに線路が走っていることに気付いていないのかもしれない。

 デジタルワールドの表層・物理レイヤの荒野に蜘蛛の巣のように張り巡らされたこの線路は、実のところ誰が何を目的にどのようにして設置したものであるかはよくわかっていない。
 大地のデジコードとも紐付いておらず、完全に独立して存在する、誰もが知っていながら誰も知らないデジタルワールドの謎の一つである。

 トレイルモンの近親種にロコモンというデジモンがおり、その進化形であるグランドロコモンには走りながら自ら線路を生成する能力が備わっている。
 このグランドロコモンこそがデジタルワールド中に線路を敷いた張本人ではないかと考えるものもいるが、しかしながらデジモンが自らの余剰データを用いて生成したオブジェクトは構成が非常に不安定であり、多くは本体の消滅とともにデータが破綻する。
 何十年にも亘って変わらず存在し続けるこれが、本当にグランドロコモンの線路であるかは疑問が残るところである。

 そこまで考えて私はおもむろに立ち上がり、どこまでも線路が伸びる荒野を見渡す。そうして、人気のない駅のベンチに再び腰を掛け、溜息を吐く。

 この線路の正体を解明することは、今回の旅の目的の一つでもあった。
 記録によれば線路はルーチェモンと十闘士の時代から既に存在していたという。多くの謎に包まれたデジタルワールドの歴史を紐解く上で、これは間違いなく重要なファクターになると私は踏んでいる。その為には、なんとしてでもこの先へと進まねばならないのだ……!

 秘匿されし世界の謎を説き明かすべく旅を続ける藍色の魔術師・ウィザーモン。端的に言うなら彼は今、迷子であったという――

「次の列車は、まだだろうか……」


-終-



SS第73弾は【無人駅】。
久しぶりのずっこけ魔術師。
 
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