□2017年 春期
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【\(´ε`)/】


「リバースソリダス!」

 雄叫びとともに武人は敵の眼前にてその身を半回転させる。回転速と遠心力を加えた一撃は竜巻の如き衝撃となって敵を空へと舞い上げる。
 武人は即座に態勢を戻し、空中の敵を見据えて息を吐く。

「レフトパーレン――」

 敵の身体が地上へ落ちる間際、武人の左掌底が突き刺さる。が、武人はその手をすぐさま捻り、

「アキュート!」

 竜巻による横回転から続けざま、えぐり込むドリルのような突きをもって縦回転の一撃を叩き込む。
 敵の体躯が今度は真横へと吹き飛び、けれど武人はなおも攻撃の手を緩めない。腰から抜いた刃を高々と掲げ、双眸を見開き裂帛の気合いを込めて咆哮する。

「イプシロぉぉぉン……グレイヴっ!」

 刃が光を放ち、振り下ろせば黄金色の閃光がほとばしる。岩盤を砕いて地を駆ける斬撃は瞬く間に吹き飛ぶ敵へと追い付いて、間欠泉の如く立ち上る光の柱となって敵を再び上空へと打ち上げる。
 そして、武人は音よりも速く疾走する。右手に構えた刃が再び光を帯びる。

「ライトパーレぇぇぇン……スラぁぁぁぁッシュ!」

 剣閃そのものとなった武人が地を蹴って、飛翔するが如く跳躍する。落ちくる敵へと真っ直ぐに向かい、やがて二つの影が重なる時、風を切り裂く鋭い音とともに刃が閃く。
 敵のその身が上下に両断され、降り立つ武人から一拍遅れて地に落ちる。武人はすっと振り返り敵を――訓練用の木製人形・木人を一瞥すると、傍で見ていた魔術師へと視線を向ける。

 魔術師は丸いデータパケットを手に、わなわなと震えていた。そんな魔術師に武人は、拳を握りしめて得意げに言い放つのであった。

「……という、一連の必殺技による超絶コンボを記した秘伝書に違いないネ!」
「な、なんと! この『\(´ε`)/』という謎の文字列にそんな意味が!?」
「イエア! もちろん嘘ネ!」

 驚く魔術師に武人はぐっと、いい笑顔で親指を立てる。魔術師は驚いた顔のまま、口を空けて固まるばかりであった。

 それはとある藍色の魔術師がリアルワールドから漂着したデータパケットを拾い、記されていた文字列の意味を探っていた最中のこと。旅先で偶然にかつての知り合いと再会し、何かわからないかと尋ねてみたところ、こうしてただからかわれただけという――とても平和な、ある日の出来事であった。


-終-



SS第60弾は【\(´ε`)/】。
大声で叫ぶ。それだけでただの記号も必殺技になる。
 
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