□2016年 冬期
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【決戦前夜】


「決戦である!」

 壇上から声を張り上げる統率者の言葉に、兵たちは闘志をたぎらせる。

「諸君らはこれまで長く苦しい鍛練に耐え抜いてきた! その真価が明日、問われるのだ!」

 ゼブブナイツの拠点たるエルドラディモンの背の古城。その地下練兵場に集まった兵の数は軽く四桁にも届こうかというほど。
 広大な地下空間に余計な音は何一つとしてない。嵐の前の、とはまさに言い得て妙。どこまでも静かな夜だった。

「ここに雑兵などただの一兵たりともいはしない!」

 静寂の中でただ一人語る。
 各々の目に点る火は強く熱く、確かな決意と覚悟を宿し、煌々と燃えていた。

「強者たちよ! 己が信念と力を信じ、戦い抜くのだ!」

 言葉とともに突き上げた拳に、集まった騎士団の猛者たちは応えるように雄叫びを上げた。

「うおおおおおぉぉぉ! エル・オー・ブイ・イー! ラーナモン! ラぁぁっブ!」

 口火を切るのはこの集会の発起人でもある彼ら、鉢巻きと赤いはっぴに身を包む最大勢力“ラーナモン様ファンクラブ”の面々である。

「マ・リ・イ! あ、それ! マ・リ・イ! かわいい!」

 そして“ラーナモン様ファンクラブ・マリーちゃんも可愛い派”が続く。

「電っ脳核を捧げよぉぉ! オールハイル、ヒナタああぁぁ!」

 更に新進気鋭の“ジェネラル親衛隊(非公式)”が統率された動きで一斉に敬礼をし、声を揃えれば、その横で“俺はアルケニモン一筋派”が、隊長のマミーモンを含めて構成員十余名足らずとは思えぬ声量で雄叫びを上げる。

「アぁぁールケーニモぉぉン! うおおおぉぉぉぉ!」

 いずれ負けず劣らず士気は高く、明日の決戦に向けて彼らの心は燃えに燃え、滾りに滾っていた。

「LOVE! LOVE! LOVE! LOVE! ラーナモン!!」
「マリマリ! モリモリ! マ・リ・イ!!」
「グローリー・オン・ジ・オーダー! イエス・マイ・ジェネラル!!」
「うぅアぁぁぁぁルくえぇぇニむぅおおぉぉぉぉおおっンんんん!!」

 来たる明日は彼らの愛と情熱と忠誠心とが試されるXデー。一世一代の晴れ舞台なのである。
 集まった顔触れの中には古参のトーカンモンやハニービーモンたちだけでなく、つい先日騎士団に加わったばかりのパンプモンや傭兵集団モニタモンズ、更には元デーモン軍幹部のマミーモンやデスメラモンまで実にバラエティ豊か。今日はここに来れなかった騎士団外部の構成員もまだまだ沢山いる。
 そして他にも「レディデビちゃんもよくね派」や「リリスモン様こそ至高派」等、多種多様な派閥が入り乱れつつも、しかし彼らの間に蟠りや確執はまるでなかった。その裏には「みんな大好き、可愛いこそ正義派」の尽力があったのだが、それはまた別の話である。
 もはやデジタルワールド史上でもっとも見た目に統一性がなく、しかしもっとも統率された巨大組織であるといっても過言ではあるまい。

 備えは万全。やる気は十二分。熱量は最高潮。今の彼らであれば必ずや最高のパフォーマンスを見せてくれることだろう。彼らの大部分は後方支援だが、しかし事ここに至ってそれは些細な問題でしかない。想いは一つ。ならばどこにいようと共に戦えよう。
 ゆけ、戦士たちよ。熱き想いの届くその日まで!

 ちなみに練兵場の入口でそんな様子をたまたま見掛けたちんちくりんな王様が、「なんだこれ」と呟きつつも水を差さずにそっと立ち去ったことは、彼らには知る由もないことだった。
 よくわからんがやる気があるならまあよし。こんな日でもそんなノリでいられるのはそれはそれですごいことだ。それが理解ある彼の王のお考えであった。

 そう、こんな日……それは“薔薇の明星”でアポカリプス・チャイルドと世界の命運を懸けての最終決戦に臨む、その前夜の出来事であったという――


-終-



SS第51弾は【決戦前夜】。
ある意味で頼もしい平常運行。
 
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