□2016年 秋期
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【お酒は嗜む程度】


 その日は宴会だった。

 哨戒任務で遠征中のゼブブナイツ諜報部隊が偶然遭遇したのは、ある盗賊団だったそうだ。傭兵崩れの寄せ集めでしかない烏合の衆は、何も知らず元魔王軍の騎士たちに喧嘩を売り、何の山場もなく返り討ちにあったという。
 諜報部隊にしてみれば降り懸かった火の粉を無造作に払っただけのことだったが、しかしそれに感謝と称賛を送ったのは盗賊に頭を悩ませていた近隣の町の住人たちだった。
 聞けばその町は酒造りが盛んだそうで、せめてものお礼にと名物の地酒を贈られたのだという。それはもう、たんまりと。

 アポカリプス・チャイルドの動向もいまだはっきりとはつかめず、やるべきことは山積みの今日この頃なわけだが、しかし気を張ってばかりでは身体がもたんだろうと一番偉いちんちくりんが言い出し、その晩は諜報部隊が持ち帰ったお酒でぱーっと宴会が開かれることとなった。
 とはいえ、絶賛未成年な四人にとってはいつもより大分騒がしめな夕食でしかなかったけれど。

 食堂の隅で頬杖を突きながら、ヒナタはどんちゃん騒ぎを眺めて溜息を吐く。

「賑やかね、いつにも増して……」
「ヒぃナー! ケーキあったよ、ケーキぃー!」
「あなたはいつも通りね」
「うん? 何が? あれ、いらない?」
「いる」
「だと思ったー。って、あれ? 二人は?」
「アユム君は図書室に調べ物、灯士郎君は鍛練だって」
「いつも通りだねー、うちの男子は」

 そうねと頷いて、ふと先程から視界に入っていた一際盛り上がっている一角へ目をやる。

「ところで、向こうの人だかりはどうしたの?」
「んー? あー、なんかねー、飲み比べしてんだって」
「あれ、レディーデビモンみたいだけど……」
「捕まったみたい」

 リリスモンの所用で来ていただけのはずだが、お気の毒に。まあ、大体いつも誰かに捕まってる気はするけれども。主に女子会とか、女子会とかで。

「嗜む程度って言ってたけど、大丈夫かなー」
「そうね……」

 同じことを言ってたちんちくりんなら浴びるように呑んだ揚句、さっきテラスで盛大に吐いていたけれど。今は子供みたいなものでしょうに。
 しかし、彼女に関しては……

「なんとなく大丈夫そうな気がする」
「え? どして?」
「なんかお母さんと同じ匂いがする」
「ほえ?」

 なんて言ってたちょうどその時、どわっと歓声が上がる。涼しい顔でジョッキを手にしているレディーデビモンと、その横には机に突っ伏して目を回しているデスメラモン。よくよく見るなら付近には死屍累々とばかりに横たわる騎士たちの姿もあった。

「すごいね」
「そうね……」

 女性の言う「嗜む程度」ほど信用ならないものもないと、父が零していた言葉をふと思い出す。
 パンプモン特製のモンブランを一口食べ、熱い紅茶をすすり、今日も平和ねと夜空を見上げて溜息を吐いた。
 今度は俺が相手だとばかりにすっきりした顔で戻ってきた懲りないちんちくりんについては、面倒なので放っておくことにした。

 そんな様子を鏡越しに眺めながら、女帝陛下が開けさせたワインが何本目であったのかは、お付きのバステモンのみぞ知るところである。

 そうして、宴がお開きになるのはそれから随分経った後、空が白みだした頃だった。地獄絵図のようなその惨状を見るに本当に息抜きになったのかは定かでない。

 ちなみに、いつの間にか帰ったレディーデビモンがその後、主の酒盛りにまで付き合っていたことと、騎士団の一部で彼女のあだ名が「うわばみ」になったことは、余談である――


-終-



SS第48弾はアンケートお題の【お酒は嗜む程度】。
ジェネラル殿も数年後にはきっと強そうだなと思う今日この頃です。
 
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