□2016年 秋期
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【烏龍茶】


 地軸を中心に世界を東西南北に四分し、それぞれの領域を分割管理する原始の守護者――四聖獣。
 それは太古のデジタルワールドを襲った黙示録の怪物に、この世界に現れた最初の選ばれし子供とともに立ち向かい、死闘の末にこれを深淵の闇へと封じた救世の英雄たちである。

 諸説あるものの、デジタルワールドの歴史上で最初の究極体とも言われる彼らは、並のデジモンとは比較にもならないほどに別次元の力を持ち、時に神とも呼ばれ崇められる。
 歴史や生態系すらも揺るがし兼ねない自らの力を危惧してか、平時は深層の領域から出ることさえないが、一度戦いとなればその実力は恐らくロイヤルナイツや七大魔王をも凌ぐ程。

 その居城は始まりの島・ファイル島の南東部に位置するダイノ古代境の地下遺跡より、火の壁と呼ばれる結界を越えた先、四聖獣の領域にあり、多少腕に覚えがある程度では姿を見ることも叶わないだろう――

 そこまでを語り、彼は湯飲みをそっとテーブルに置く。向かいの席で話を聞いていた緑の肌のデジモンがほうと息を吐いた。

「そう……それが四聖獣というものだ」
「はぁ、そいつぁすげぇデジモンだなぁ」
「で?」
「あん?」
「それで、なんだ、これは何と言ったかな、主人よ」

 問えば緑の肌の鬼人、この店の主人であるデジモンは目の前の客に出した食後の茶を一瞥し、少しきょとんとしながら返す。

「烏龍茶だが」
「ふむ……お茶か」
「お茶だな」
「ただのお茶か」
「ただの……まあ、そうだな」
「……そうか」

 先程まで雄弁に語っていた液晶テレビの忍者デジモンは言葉少なく、考え込むように俯いてしばし、一人納得したようにうむと頷く。

「あん? なんかまずかったか?」
「いや、なんでもない。すまぬな、こちらの話だ」

 訝しがる店主を余所に、忍者デジモンは遠く窓の外を眺め、烏龍茶を一口啜る。
 ふふ、成る程な。お茶か。字面と語感からして四聖獣に関係のあるものではと思ったが、別にそんなことはなかったようだ。まあ、関係あったとしてだから何だという話なのだけれど。

 忍者は席を立ち、会計を済ませると店を後にし、懐から一枚の紙と筆を取り出す。
 さて、それでは結論といこうか――

『中華料理店・覇王軒』
 料理:★★★★☆
 価格:★★★★★
 接客:★★★☆☆
 総評:店員の言葉遣いは若干粗暴だが大衆食堂としては親しみやすさがあって良し。品数は豊富で値段も非常にリーズナブル。特に看板メニューである「激辛鬼殺しラーメン」は絶品。
 備考:スピリットの情報とかは特になかったです。

 書き終えた報告書をしばし見詰め、忍者デジモンは――ゼブブナイツ諜報部隊に所属するモニタモン・との二番はそれをそっと懐に仕舞う。スピリットの探索任務の報告書にこれを出すのがさすがにまずいことくらいは、いくらなんでもわかっていた。
 との二番はお持ち帰り用の胡麻団子をせめてもの手土産に、膨れたお腹をさすりながら帰路につく。水の闘士様には喜ばれたものの、上司には普通に怒られたことは、言うまでもないだろう。


-終-



SS第47弾は【烏龍茶】です。
一部こっそり別サイドなずっこけ忍者劇場その五。
 
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