□2016年 春期
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【猫舌】


「あちゃ」

 なんて言って渋い顔で舌を出すマリーに、ヒナタは「大丈夫?」と声を掛ける。二人の前に並ぶ卓上の大皿に盛られていたのは、湯気立つタコ焼きの山であった。騎士団の鍛冶師やコックに無理を言って調理器具から手作りしてもらったものである。
 このデジタルワールドでタコやら鰹節やらまで一体どこで調達してきたのかは謎だが、それはともかくとして関東出身な二人のアバウト過ぎる知識だけを頼りに手探りで作ったとは思えない程に、完成度は非常に高かった。
 ただ、出来立てのタコ焼きはがっくつには中々に危険な代物であった。

「あひゅい……」
「もう、慌てなくても誰も取らないわよ。はい、お水」
「あいあと。うにゃー。以後気を付けるでありまーす、ジェネラル殿ー」

 ひょいと敬礼をしておどけてみせるマリーに、ヒナタは肩をすくめて息を吐く。ジェネラル就任から数日、皆に言われ続けたお陰でこの手のからかいにはもはや慣れたものだった。
 マリーは冷たいお水を一口飲むと再び熱いタコ焼きに手を伸ばす。これまた手作りの爪楊枝をぷすっと刺して、上り立つ湯気を見て――そうして不意にヒナタへ向き直る。

「ねえねえ、ふと思ったんだけどさー」
「んー、なあに?」
「デジモンにも猫舌ってあるのかな?」
「デジモンに? さあ、どうかしら……」


『case.1:インプモン』

「おお、なんだそれ。旨そうだな」

 二人が話していると通り掛かったのは、いまやこの城の主でもあるちんちくりんことインプモンであった。

「あら、ちょうどよかった。インプモン、食べてみる?」
「お、いいのか。なら貰うぜ」

 そう言って熱々のタコ焼きを手でつかみ、ピーナッツでもつまむように一つ二つと口へと放り込む。人間であればそのままリバースしてもおかしくないところであったが――

「もむ、んめーな。あむあむ」

 などと、リスのように頬張ってお召し上がりになる。

「……そういえばベル様ってなんでも食べるよね」
「“暴食”だものね」
「あん?」


『case.2:レイヴモン』

「レイヴモーン、あーん」
「は……あむ?」

 振り返ったレイヴモンの口に有無を言わさずマリーが押し込むのは勿論ほかほかのタコ焼きである。なぜ彼なのかというならたまたまそこにいたからとしか言いようがない。

「ごめんね、急に。どう?」
「むう……ふむ、美味しゅうございます。しかし、これは一体……」
「あのねー、タコ焼きってゆーの。熱かった?」
「は……火は通っているようですが」
「うーん、そっかー」
「あの……」
「ああ、いいのいいの。まだあるから、よかったら食べて」
「はあ……」


『case.3:バステモン』

「ねえねえ、バステモンって猫舌?」
「うにゃ? にゃあに、それ?」

 そんな質問は鏡の交信魔術を通して。わざわざそこまでやるほどの質問では絶対にないが、女帝陛下から「逢いたい想いが募ったら」と贈られた鏡がずっとほったらかされていたので使ってみることにした。
 若さとは、躊躇しないことである。

「熱いものを食べるのが苦手な人を猫舌っていうの。バステモンはどう?」
「にゃー。頑張れば食べれるにゃ」
「頑張れば……そっかー、ありがとー」
「なんじゃ、用件はそれだけかえ? 詰まらぬのう、直接遊びに来てもよいのじゃぞ」
「え? あー、うん。そだね。そのうち行くよー」
「ほほ、そうか。うむ、約束じゃぞ」

 なんて満足げに笑うリリスモンと、既に飽きて寝転がってるバステモンに手を振り、二人は交信を終える。孫に会いたいおばあちゃんみたいだなとは、口が裂けても言えなかった。


『case.4:スカルサタモン』
『case.5:メタルシードラモン』
『case.6:エルドラディモン』

 なんかみんな普通に食べてました。まる。


『case.7:ラーナモン』

「というか、自分で確かめてみたらいいんじゃない?」
「自分で? あ……そっか」

 ヒナタの言葉におもむろに立ち上がり、マリーはデジヴァイスを構える。

「スピリット・エボリューション!」

 光の帯に包まれ、瞬く間にマリーはその姿を伝説の闘士ラーナモンへと変える。伝説とは。

「よーし、いっただっきまーす! あむあむ……は!?」


『結論』

 冷めててわかりませんでした。まる。


-終-



SS第36弾は【猫舌】です。
でも多分ラーナモンは普通に猫舌だと思うよんです。
 
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