□2015年 冬期
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【やっさもっさ】


「やっさ!」
「もっさ!」
「はぁいはぁいはぁいはぁーい!」

 軽快な笛の音と手拍子に乗せ、村人たちは声の限りを張り上げる。あるものはバンザイの格好で手を体ごと左右に振り、あるものはスクワットのように屈んではジャンプを繰り返す。広場に灯る巨大な篝火を囲み、真昼と見紛うほどに明るく賑やかな夜を踊り明かしていた。

「やぁーっさ!」
「はいはいはーい!」
「もぉーっさ!」
「はいはいはーい!」

 天をも焦がさんばかりに燃え上がる炎と、それに勝るとも劣らぬ村人たちの熱気が渦を巻く。
 “やっさもっさ”――リアルワールドからもたらされたそんな言葉を掛け声に、デジモンたちは思い思いに祭りを楽しんでいた。

 きっかけは、とうに昔のことだ。
 リアルワールドから流れ込む情報の波、“光の柱”もこの辺境の地まで届くことは稀であったが、それでも時折データパケットの欠片が漂着することがある。今から数十年前、村へと落ちてきたパケットに内包されていたのは“やっさもっさ”という謎の言葉一つであった。
 正直なところ意味はさっぱりだった。だが、この楽しげな言葉はきっと祭りか何かの名前に違いないと、最初に見付けた村人はそう考えた。
 そこから、すべてが始まったのだ。

 娯楽に乏しいこの村ではお祭りも年にたったの24回きり。新たに生まれた「やっさもっさ祭り」は村人たちによる度々の改良と新解釈を経てやがて、村最大規模の「もじゃもじゃハーヴェスト」に次ぐお祭りへと成長していった。つい最近できたばかりの「アマミナマナ祭り」と合わせ、いつしか村の3大祭りと呼ばれるようになっていったのである。

「やっさっさー! やっさっさー!」
「もっさっさー! もっさっさー!」
「あぁーい……やっさもっさぁー!」

 長老による今日一番の雄叫びが密林の夜空に響き渡る。どっと、村人たちから嵐のような歓声と拍手が起こる。
 余談であるが「やっさもっさ」とは「大勢の人が大騒ぎする」という意味であり、彼らの解釈は決して的外れと言えなくもないことも無きにしもあらずなのだが、もはや今となってはどうでもいいことであろう。
 村人たちの楽しげな声はその後、朝まで途絶えることなく続いたという。ちなみに具体的にこれが何のお祭りであるかは、誰にも分からないことであった。
 今日もまた、村は平和である――


-終-



SS第30弾は【やっさもっさ】。
何だこれって? 何だろうこれ……
 
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