□2015年 夏期
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【魔法少女】


「あたしたちってさ、なんか日曜の朝っぽいよね」

 なんて、何の脈絡もなく言い出す少女の名は露崎真理愛。真理の愛、だなんて大袈裟で少し気恥ずかしいと本人的にはマリーというあだ名がイチ押しである。そんな少女・マリーに二人の少年は目だけを向けてただ沈黙する。はたと、少年の一人が少女の言わんとしていることをぼんやり察したのは数秒を置いてから。少年・仙波アユムは眼鏡をくいと上げて言う。

「特撮ヒーローのようだと言いたいのか?」
「そうそう、それそれ。後なんかほら、魔法少女?」
「それは“あたしたち”ではないだろう」

 うむと、長身長髪の少年・百鬼灯士郎は腕組みをしながら頷く。ふと窓の外に目をやれば、風に舞う綿毛のような白羽が見えた。
 ここはデジタルワールドの辺境にそびえる“薔薇の明星”。主を失くして久しいこの古城の一角、白亜の搭の上で三人の少年少女たちは戦いの間に休息の時を過ごしていた。

「でもでもぉ、“正義の味方”って意味じゃ割と似たようなもんだよね」

 自分のほっぺをつんと突いて、マリーは小首を傾げる。灯士郎がうむと頷く。

「ああ……というかそもそも何の話だ?」

 そう、アユムが問い返せばマリーは悪戯っぽい笑みを浮かべて、先程からずっと抱えていた麻袋の中身を取り出す。淡く青みがかった白い布地を勢いよく広げてみせた。

「じゃーん! と、いうわけで作っちゃいましたー! 見て見て、どーお?」

 楽しげに言うマリーの手にはレインコートにも似たフード付きのロングコート。アユムはふと微笑んで、灯士郎の肩をぽんと叩く。後は任せたと、その表情が語る。任された灯士郎は何か言いたげな顔で少し、溜息を吐いてマリーへ向き直る。

「話の流れがわからないのだが」
「えー、聞いてなかったの? んもう、熟年夫婦かっ!」

 ずびしっと、のりのりで突っ込むマリーに灯士郎は真顔で一言「すまない」と返す。冗談が通じているのかいないのか、定かではないがマリーはさして気にする様子もない。構いもせずにもう一度ロングコートを広げてはためかせてみせる。

「変身ヒーローといえばコスチュームでしょ! そう、つまりこれ!」

 どやあ、と言わんばかりの顔で声を張り上げる。アユムと灯士郎は顔を見合わせてしばし、ただ無言で頷いた。マリーが得意げに見せびらかすコートは、何と言うか、変なコートだった。フード部分には大きな渦巻きが二つ、袖口には切れ目のような模様が入っていた。目玉と、エラだろうか。おおかた“水”から連想した魚柄といったところだろう。

「“水”の闘士でしょ? だから半魚人! どう?」

 袖を通して裾を翻し、くるりと回ってみせる。よく見ればサメのような尻尾まで付いていた。答え合わせはアユムの想像と寸分も違わない。どうと言われても、なぜあえて人魚とかではなく半魚人などという色物を選んだのか、とか、そもそもコスチュームは変身した後の話ではないのか、とかくらいしか感想はなかったが、きっとそれは求められているものではない。

「で、二人はどんなのにする?」

 さも当たり前のように笑顔で問われて、少年たちは固まる。
 なん……だと……?
 着ろというのか。我々に。本当に“あたしたち”で魔法少女でもやろうというのか。何を言っているのだと、言いたげな顔でアユムと灯士郎は押し黙る。そういう意味なのか。
 シワを寄せた眉間を指で押さえてアユムは言う。

「マリー、残念なお知らせがある」
「え? なになに?」

 故に急いで、可及的速やかに一刻も早く、アユムは話題を逸らすことにした。余命を宣告する医師のような、世の終わりを告げる預言者のような顔で、溜めに溜めてこう言うのだ。

「“ラーナ”というのはな……“カエル”のことなんだ!」
「な……なんですってぇー!?」

 そんな馬鹿な。カエルだって? 無理を言って作ってもらったのに。よりにもよってカエル? よく考えたらカエルも可愛いじゃない! カエルの小物とか作ってもらえないかな。
 実時間にして1秒弱でショックから立ち直り、マリーはまだ見ぬカエルのアクセサリーに思いを馳せる。
 アホの子でよかったと、アユムは心底思う。灯士郎がうむと頷いた。

 それは、三人が魔王の半身とある少女に出会う、少し前の話だった。


-終-



SS第8弾は【魔法少女】です。
本編じゃ意外と一度もなかったスリーショット。こうしてあの変なコートはできました。
 
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