□2015年 春期
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【友よ】


「おおおおおぉぉぉ!!」
「ぐるるるぁぁぁぁ!!」

 二匹の獣が雄叫びを上げる。闘志と戦意の限りを燃やし、誇りと魂のすべてを懸けて、獅子と鬼人が拳と刃を交えて火花を散らす。
 それは青天を引き裂く霹靂のようで、海原に荒れ狂う嵐のようで、大地を焼き尽くす戦火のようでもあった。

 どおん、と鳴り響くは剣戟。獅子頭の獣人が黒衣を翻して片刃の剣を逆手に繰り出せば、鬼面の巨人は怒号とともに巌の如き巨剣をもってこれを迎え撃つ。一合、二合、三合を打ち合い、互いの剣が諸共に弾かれ、その手を離れる。
 瞬間、獅子と鬼人は意にも介さず拳を突き出す。伴う轟音はまるで星でも落ちたよう。衝撃が爆風となって飛散し、雷にも似た余波が空を舞って地を這い回る。天が逆巻き大地が隆起する様は、さながら神々の最終戦争。

 友よ。
 声もなく叫ぶ。いつか交わした約束が脳裏を過ぎる。とうに満身創痍の五体をなおも突き動かすそれ。
 届けよう。届かそう。たとえこの身が砕けようとも!

 互いの拳が互いの顔面を打ち据える。表情を歪めながらそれでも怯むことはない。眼光が焔と燃ゆる。
 再び鉄槌の如き拳を打ち合い、互いにその身体をのけ反らせる。僅かに開いた彼我の距離。それは互いが互いに必殺の間合い。

 獅子が後方へと跳躍し、右の拳を振りかぶる。
 鬼人が地を踏み鳴らし、左の拳を深く沈める。

 獅子の拳に金色の炎が点る。鬼人の拳に紅蓮の炎が点る。片や太陽にも似て、片や地獄そのもの。魂を揺るがす咆哮とともに、獅子と鬼人は己が持てる力と技のすべてを懸けた一撃を解き放つ。血と肉の一片までも燃焼させ、ここに命果てようが構わぬとばかり。奇しくも、歪んだ胸像の如き拳打が炸裂したのはまったくの同時。

「“獣王拳”!」
「“覇王拳”!」

 獅子の頭部を象った陽炎が天より降れば、鬼面を模した獄炎が地より昇る。天地を二分するかの如きその激突は、すべてを無より創造し直すが如き超常の力をもって互いを喰らい尽くさんと猛進する。
 余波はこれまでの比ではない。空間が軋み、歪み、大地の組成データが混濁する。物理レイヤに留まることすらもできず、0と1の塵芥となって霧散し、衝突点を中心に大気と大地が消し飛ぶ。
 二色の炎が弾けて散ったのはその直後。後僅か遅ければ小世界自体が綻んでいただろう。四散する炎は互いのすべてを費やした最後の一撃。だからこそ、

「「がああ!!」」

 爆炎を蹴散らしてなおも繰り出す拳は、限界を越えたその証明。
 互いの頬にめり込む互いの拳。ぐるりと、目があらぬ方を向き、ふらりと、獅子と鬼人は崩れ落ちる。腕を交差させたまま前のめりに倒れ込み、そうして僅か、獅子は――バンチョーレオモンは笑うのだ。

「92勝58敗……627引き分けか。また腕を上げたな、友よ」

 そして鬼人も、タイタモンもまた笑い返す。

「誰が友だ。け、精々今のうちに余裕こいてろ。次こそ吠え面かかせてやらぁ、レオモン!」
「はっはっは、さすが我がライバルだ。明日も楽しみにしているぞ、オーガモン!」

 昼日中に始めた日課の決闘も気付けばとうに夕刻。決闘そのものを始めた頃の名で呼び合って、獅子と鬼人は笑い合う。
 そのうちどっちか死にますよ。とは獅子の弟子たち。発端を聞けば声を揃えて忘れたと言う。

『いつでもかかって来い』

 いつかの獅子のそんな言葉が二人のすべて。いつもかかって来い。と聞き間違えたのではと弟子は思うが、今となってはどうでもいいことだろう。

 馬鹿二匹は、こうして明日も殴り合うのである。


-終-



SS第7弾は【友よ】。
バンチョーが無性に好きです。キャラソンの「人生仁王立ちの馬鹿が一匹」ってフレーズも大好きです。
 
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