□2015年 春期
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【嘘】


「行くぜ、ガルルモン!」

 そう言って相棒はデジヴァイスを掲げる。俺は低く喉を鳴らし、敵を睨み据えて「任せておけ」と返した。
 ここはデジクオーツ。デジタルワールドとリアルワールドの狭間に存在する亜空間だ。そしてこのデジクオーツに迷い込んだデジモンたちを捕獲するのがデジモンハンターと呼ばれる人間たち。そう、俺の相棒もその一人だ。

 デジタマのまま境界の裂け目に落ち、デジクオーツで生まれた俺が最初に出会った人間こそ今の相棒だ。時に詰まらない喧嘩もする俺たちだが、戦いとなれば息はぴったり。このコンビネーションで完全体を仕留めたこともあるくらいだ。
 相棒は少し考えなしに突っ走りがちなところが玉に傷だが、かくいう俺も人のことは言えない。要するに、似た者同士ってわけだ。
 だからこそ俺たちは最高のコンビだと、そう胸を張って断言できる。

 でも、俺は一つだけ相棒に嘘を吐いている。
 なあ、相棒。俺はずっと言い出せないでいたことがあるんだ。お前に偽り続けていたことがあるんだ。いつもいつも、胸の奥にトゲが刺さって抜けないでいるようで、心苦しくて仕方がないんだ。
 けど分かってほしい。俺はただ、お前をがっかりさせたくなかっただけなんだ。お前とずっと一緒にいたい、それだけなんだ。真実を知ったお前が何て言うのか、怖くて怖くて、どうしようもないんだ。

「大丈夫か、ガルルモン!?」

 考え事に注意力が散漫になって、普段なら訳無い攻撃を喰らってしまう。そうだ、それなんだ。「問題ない」なんて返したけど大丈夫じゃないんだ。そこじゃないとこが大丈夫じゃないんだ。
 聞いてくれ。知ってくれ。真実を。そうじゃないと。俺は、俺は本当は……!

 ガルルモンじゃなくて、グルルモンなんだ……。





「行くぜ、ガルルモン!」

 そう言って俺はデジヴァイスを構える。相棒は「任せておけ」と力強く頷いてみせた。
 俺はデジモンハンター。このデジクオーツのデジモンたちが人間の世界に入り込んでしまわないよう水際で食い止める為、相棒とともに日夜戦い続けている。

 でも俺には、悩みがある。単細胞だとよく言われるが、そんな俺にも悩みがある。俺の心を苦しめ続けて止まない大きな大きな悩みがある。
 どんな悩みだって言うなら、要は相棒のことだ。いや、不満があるわけじゃない。こいつに不満なんてあるわけがない。友達のように一緒に笑い合い、兄弟のようにたまに喧嘩もして、唯一無二のパートナーとして力を合わせて戦ってきた。俺たちは最高のコンビだって断言できる。不満なんてあるはずもない。

 あるとしたら俺だ。俺が吐いてしまった嘘がすべての元凶だ。
 ただ分かってほしいんだ。嘘を吐くつもりなんてなかったんだってことを。知らなかっただけなんだってことを。
 仮にもデジモンハンターだってのに、そんな俺が物を知らなかったばっかりに、お前に嘘を吐いてしまった。お前にとんでもない勘違いをさせてしまった。

「大丈夫か、ガルルモン!?」

 考え事に指示が遅れて、いつもならするはずのない怪我をさせてしまう。そうだ、それなんだ。「問題ない」と相棒は返してくれたけど、確かにかすり傷のようだけど、問題はそこなんだ。そこじゃないけどそこなんだ。

 嗚呼まただ、また言ってしまった。すまない相棒、そうじゃないんだ。ちょっと白いかなって気はしていたけれど、そうじゃなかったんだ。
 聞いてくれ。知ってくれ。真実を。そうじゃないと。お前は、お前は本当は……!

 ガルルモンじゃなくて、グルルモンなんだ……。


-終-



ショートショート第2弾は【嘘】です。
お前ら結局誰だって? 誰なんだろうね。
 
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