-花と緑の-
□最終話 『花とヌヌ』 その三 エピローグ
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シーンU:別れの刻へ(1/10)
お昼は豪勢だった。
病み上がりの上に夜には宴を開くからと、婦人は気を遣って昼食を少なめにしましょうかとも言ってくれたのだが、当のあたしは「食べます」と即答した。
そのよだれと腹の虫に用意されたお昼ご飯は、あたしが大の字に寝転べるくらいの丸テーブルを埋め尽くさんばかり。
あたしはもたもたしているヌヌも待たずに椅子に掛け、早速目の前の大皿に手を伸ばす。
「おーっす。うまそーだな」
なんて暢気にヌヌがやって来たのは程なくして。
「なんか空んなってる皿の量がおかしい気もするけど、オイラどっかで時空飛び越えたっけ」
「もぁーぃみっみんおおー。まーああおーぃんほー」
「いや遅くねえよ。結構すぐ来たろ」
「んむっ、あぅおおぃう!? うあっ!」
「お、どれだ? って、ああ!? 極上肉じゃねえかそれ! オイラにもくれ!」
「あーぃおんあぃお!」
「あー、ずるいぞハナ」
ぬじゅると這い寄るヌメヌメから骨付き肉さんを死守し、あたしは美味しいご飯さんたちを胃袋へと迎え入れる。
そんなあたしたちの様子を見ながら、いつの間にかやって来ていた二人が呟いた。
「なぜ通じるのだろうか……」
「ハハ、以心伝心ネ」
心外である。
「もぁ。んむ……ごくん。んあ、ウィザーモン、ツワーモン。おはよ」
「ああ、おはよう。元気そうでなによりだ」
「勇者のタフネス恐るべしネ」
「いやー、それほどでも。って否定しといてよそれ」
と言えば二人は顔を見合わせて、くすりと笑う。
「ん?」
「おっと、失敬。なんでもないよ」
「それよりマスターと連絡がついたネ」
「ああ、私もだ」
「え、もう? ってどうやって?」
あたしが首を傾げると、ツワーモンの後ろからひょこっと見慣れないデジモンが顔を覗かせる。コスチュームだけなら忍者、だがその頭はなぜだかレトロなブラウン管テレビである。
「紹介するネ。ミーの頼もしい仲間、“モニタモンズ”ネ」
「よろしくどぞ」
ぺこりとお辞儀をし、モニタモンズとやらは頭のテレビに笑顔の顔文字を映す。というか、
「ズ、って?」
「ヤー、モニタモンたちの能力は遠隔地にいる仲間との通信。他のモニタモンにはホームで、彼には潜入前から付近の村で待機してもらっていたネ」
「お肉おいしかったです」
決戦の裏で休暇を満喫すんな。
あたしもおいしかったです。
じゅるりとテーブルのお料理を見ながらよだれを垂らせば、ツワーモンがわざとらしく咳ばらいをする。
「さて、ともあれ結論から言うなら……マスターは封印には関わっていなかったネ」
「え、そうなの? もぐもぐ?」
しれっと食事を続けるあたしのことはスルーして、そんな気はしていたが、と小さく零してツワーモンは続ける。おもむろに胸を張って腕を組み、ちょっと低い声で誰かの真似をするように。
「『心滾るよき闘いであった。いずれまた相見えようぞ』……って、再戦する気満々で別れたそうネ」
バトル脳が。
だが確かに、これまで聞いていた人物像とブラストモンのあの状態には違和感もあった。五体を砕いた上に地下に埋めて封印、だなんて、そこまでするような奴はそもそもあんな化け物とまともに殴り合ったりしないだろう。
となれば誰が、という話だが、
「残念ながらああなった経緯は知らないそうネ」
「ほっかー、んむんむ」
「要は収穫なしネ」
といってくるりと身を翻す。ひゅ、と風が吹き、瞬きの間にその身体が小さくなる。ツワーモン、いや、ダメモンは片足を上げてポーズを決め、ウインク一つぶちかまし、
「ソーリィ」
などとほざく。逃げられたつもりか、エセ忍者め。だがまあ、知らないものは知らないのだからそれ以上どうしようもないのだけれど。