-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その三 エピローグ
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シーンV:二人の……(1/6)

 あたしたちが鉱山へ着いたのは、日が少し傾きかけた頃だった。

「ウィザーモン、来たよー」

 坑道を進みながら、そう言えば具体的にどこにいるかは聞いていなかったのでとりあえずあてずっぽうに声を掛けてみる。
 しばらくそんなことをしているとどこからか遠いウィザーモンの声がして、すぐにデジヴァイスからはっきりとした声が響く。

『ハナ君? 早かったね、私たちなら一番下だよ』

 という声の後、立体映像のジオラマ地図がデジヴァイスから投影される。
 地図の示す通り、ウィザーモンが土の魔術で掘ったのであろう小さなトンネルを進み、鉱山の奥へ奥へ、下へ下へと潜っていく。
 やがてやってきたのは開けた地下空間。大理石のような石材でできた床と壁。ほんの十メートル四方ほどの部屋の中央には祭壇らしきもの。坑道とは明らかに違う、見た目はまるで神殿。土の魔術のトンネル以外に出入口は見当たらず、鉱夫が作ったものとは到底思えない不自然な場所だった。

「ハナ君、ヌヌ君」

 祭壇の上から掛かった声に目を向ける。地下室は松明もないのに妙に明るく、石材自体が光を発しているようだった。
 薄明かりの中にウィザーモンの姿を認め、祭壇を上り、あたしたちは数日ぶりの再会を果たす。

「どうだ、開けそうなのか?」
「ああ、問題ないよ。既に九割方は掌握できている」

 ヌヌの問い掛けにワイズモンが答える。確か世界征服とかにも利用できるものだと聞いていたが、そんな簡単に乗っとれていいものだろうか。ウィザーモンは悪用なんてしそうもないが、師匠のほうはガンガンしそうな気がすごくする。

「おや、心配そうだね勇者君」
「だ、大丈夫だよ。ゲートを開く以外に使うつもりはないから」
「ああ、だが安全にゲートを開くためには何ができて何ができないか、しっかりと把握しておく必要はあるがね。ふふ」
「おい、こいつ悪用する気満々だぞ」
「師匠っ!?」

 と思わず声を上げるウィザーモンに、しかしワイズモンは肩をすくめてみせる。

「まあ、確かに僕は私利私欲で使う気でいるが」
「認めやがった」
「だが安心したまえ。僕の欲なんてささやかな知的好奇心ただ一つさ。支配や破壊に興味はないよ」

 代わりに秩序や平和にも興味はなさそうだが。という言葉はひとまず飲み込むことにした。だって勇者もお家には帰りたいのだもの。

「ま、まあ、ともあれ明日には開けると思うよ。それで、二人は今夜は……」
「ん、ああ、一回帰ろうと思ってよ」
「ヌヌの故郷がすぐそこだからね。バロモンさんにも挨拶したいし」
「そうか。ならまた明日だね」
「うん、じゃあもうちょっとお願いね」
「ああ、任せてくれ」

 そうして、ウィザーモンとワイズモンに一度別れを告げ、あたしたちは鉱山を後にする。

 茜色の空を二人、再び翔ける。
 行きは果てしなく思えたその道程を、行きとは見違えたヌヌの翼で逆順に辿り、あたしたちは始まりの、あの村へと戻ってくる――
 
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